第4話 陽彩という存在

 陽彩の看病を続けて数日。気づけば眠っていたようで、目を開けた瞬間に飛び込んできたのは、大粒の涙を流している陽彩の姿だった。

「ど、どうした!? まさか、私がうたた寝している間に鬼が?」

 そうだとしたら、傷ひとつ付けておらぬ陽彩は、またしても全力で鬼を退けたということか。あれだけ釘を刺したというのに……。

「おぼろっ、朧も、寂しかったんだねぇっ」

「……え?」

「晴明さんに出会って、朧は救われたんだねっ。すごいや晴明さん、すごい、ほんとすごいよ。そのおかげで、僕は朧に出逢えたんだから」

「其方……先ほどから何を言うておるのだ?」

「? だって、朧が話してくれたから。朧が死にそうだったところを晴明さんが助けてくれたんでしょ? そっか、この瑠璃色の瞳って、そういう使い方があったんだね。教えてくれた晴明さんにお礼言わなきゃ」

 なるほど。

 この陽彩と名付けた少年。夢見の力まで備えておったか。

「すごいねぇ、晴明さん。死にたいって思ってた朧を、ここまで生きさせてくれたんだもん。じゃなかったら僕たちは出逢えなかったんだもんね。晴明さん、ありがとぉ」

 そう言って、陽彩は涙を流しながら笑った。

 晴明の手は冷たくて心地良かった。

 母に対する怒りと失望で熱っていた身体には、晴明の体温が必要だった。

 しかし。

 陽彩の手は温かくて心地良い。

 そう。今、私が求めているものは。

「陽彩は温かいな。まさに子ども体温」

「なっ! そりゃ僕は朧よりもずっと子どもだけどさぁ! でも見ててね、近いうちに絶対に朧より大きくなってやるんだから!」

「そうか。このちびがどれだけ大きくなるのか、楽しみにしているぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る