私のいるところが、旅先だ。
私はよく猫みたいだって言われる。自分でもそう思う。猫をかぶっている。虚空を見つめる。何を考えてるかよくわからないって言われる。自分もそう思う。何も考えていないわけではないけれど、言語化するには価値が乏しすぎて意識の上に登ってこない情報の雨嵐が、無意識の中で蠢いているのを感じて心地よくなっている。
お店の入り口横にびっしり貼られた選挙ポスター壁紙を見ている私は、そのお店から10mくらい離れたまま、そのポスターとポスターの隙間を観察していたり、上端と下端のズレとかを観察していたりする。まあ、わざわざ業者を呼んで貼るものでもないってことなのかは知らないけど、意外と少し傾いていたり、揃っていなかったり、間隔が均一でなかったりする。そういうのを見ると、半角全角の数字やカタカナ混用が確認できる書類を見た時くらいにモヤっとする。
かつて家の近所に長い蔓や背の高い草が伸び放題の家があって、そこからは虫が大量に湧く。流石に近所迷惑、公害の原因として問題視され始め、しばらく経つと植物はみんな刈られてスッキリしていた。あれから数ヶ月経つけど、植物が生え直して再び伸び荒れている、ということはなく、恐らく除草剤か何かの再発防止策を講じたんだろうなって思う。今は不動産業者の売地の看板が立っている。もしかして、住んでいた人が亡くなったまま放置されていたんじゃないかという考え方もよぎったけれど、そんな事件があったら噂になって耳に入ってるし、売り出しても買ってもらえないだろうから多分、単純に不在の空き家が放置されてただけなんだと思う。
川の堤防道路に立ち止まって、遥か下の河原の石1つに目をつける。この川を観察するために立ち止まった者のうち、この石に注目した人間は私1人しかいまい。写真は撮らない。これは私だけの秘密。誰にも教えないし、教える価値もないし、聞かされる側も困るだろうし、明日になったら私も忘れてる。だから、明日また同じようなことをした時に、あれが私の石だ!って決めたものが、今日の石と同じものかもしれないし、そうじゃないかもしれないし、どちらにしても確かめようがない。
私のいるところが、旅先だ。ちょっと普段、目を向け忘れているところに顔を向けて見るだけで、毎日でも、毎時間でも、毎秒でも新しい発見がある。そういう生活ができたら人生は楽しいし、退屈しないと思うんだ。
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