第二十話:式神たちの真名
黒の霧が旧封呪域に吹き荒れる。
玄哉――影の連邦上位契印者。
その背には死んだ式神たちの『残骸』が縫い合わされ、今なお呻きを上げていた。
「この式獄の陣は、“死んだ契約”の総意から成る。
生者の契約など、俺の前では霞に等しい」
男の声が塔の鐘のように響く。
だが俺は、白夜と瑠璃を背に立ち塞がった。
「なら見せてやる。俺たちの“今ここにある契約”を!」
――白夜、瑠璃。
二人の式神が、それぞれに紋を解放する。
白夜の背には九つの尾が広がり、空気中の霊気を濾し取るようにたゆたう。
瑠璃の両手には“氷と炎”の刃が灯り、足元には蓮の紋章が浮かぶ。
「主よ、許可を」
白夜が凛とした声音で言う。
「……私の真名を、今こそ明かします」
「瑠璃も同意見。制限を解くには、あなたの承認が必要だから」
俺は頷いた。
「二人の名を、俺に刻ませてくれ」
白夜の姿が一瞬揺れ、古代の白銀衣装を纏った巫女のような姿に変化する。
「私は――『百嶺 白灯(ひゃくれい・びゃくとう)』。
人と神の狭間で生まれし“影渡し”の血を継ぐ者。
契約の主よ、貴方に我が“光”を預けます」
瑠璃も衣装を変え、炎と氷の双剣を背負う戦乙女の姿となる。
「私は――『凍焔 瑠璃火(とうえん・るりか)』。
古の“火氷の祭祀”を受け継ぎし、“双極律者”の末裔。
貴方の“刃”となることを、ここに誓う」
二人の真名が空へと刻まれ、空間全体が震え始めた。
「真名……開示だと……!?
あれは式神の“核”そのもの……名を明かした時点で、死と同義の契約だぞ!」
玄哉が叫ぶ。
「だからこそ――それだけ信じてるってことだ」
俺の掌に“影白”の印が浮かび上がる。
「白灯。瑠璃火。俺の魂と、繋がってくれ」
その言葉に、ふたりが頷いた。
「『終契・神縁印(しゅうけい・しんえんいん)』――発動!」
三つの力が重なり、地面に巨大な霊陣が現れる。
玄哉の式獄が悲鳴を上げる。
「なぜだ……死者の力を超えるな……式神は……“使役されるだけ”の存在だったはず……!」
「それは違う」
俺は剣を抜いた。
いや、正確には――白夜の尾と瑠璃火の刃が融合した『霊刃』だった。
「式神は“共に生きる存在”だ」
霊刃が光を放ち、玄哉の前に現れる式神の骸たちへ届いたとき――
彼らは、音もなく“光”へと還っていった。
「なっ……おまえ……死者を……解放した……?」
玄哉が膝をつく。
「奴らも、縛られてたんだ。お前の“偽りの契約”にな」
影の連邦・玄哉は、己の式を失い、空に崩れるように消えていった。
戦いは終わった。
だが、夜の空に浮かぶ雲は、未だ不吉な形を保っていた。
俺は振り返り、二人の式神を見つめる。
「白灯。瑠璃火。ありがとう」
「名を受け入れてくれて、嬉しく思います」
白灯が微笑んだ。
「正直、怖かった。でも……今は、なんか、スッキリしてる」
瑠璃火も穏やかに笑う。
俺は空を見上げた。
雲の向こうに――何か、巨大な“目”があるような気がした。
「まだ、終わっちゃいない」
「ええ。“神の器”として、次に進まねばなりません」
白灯が言う。
「第二の“連邦拠点”が、動き出してる」
瑠璃火が言った。
俺は静かに拳を握りしめた。
「ここからが本当の戦いだ。
式神も、人も、そして俺自身も――何者なのか、見極めるために」
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