第九話:影の連邦、始動
夜の帳が町を覆い尽くし、あらゆる音を飲み込んでいた。
霧が路地裏を漂い、街灯の灯りがぼんやりと揺れる。
俺と白夜は、静かな夜道を歩いていた。
今日もまた、依頼の現場からの帰りだった。
だが、空気はいつもと違った。
背後から、確かな気配が迫ってくる。
それは人のものではない――冷たく、重い影。
白夜の瞳が突然鋭く光り、低く警告した。
「主よ、警戒を」
俺はとっさに身構え、周囲を見渡す。
街灯の輪郭の中から、幾つもの黒い影がゆらりと現れた。
「奴らだ……影の連邦」
白夜の声に、俺の血が沸騰した。
影の連邦――闇に蠢く、式神や拝み屋を狙う組織。
彼らは俺たちの力を奪い、闇を支配しようと目論んでいる。
「なぜ、俺たちを?」
問いかける俺に、白夜は冷静に答えた。
「我々の力は、闇の中でも際立つ存在。
それを利用せんと、狙われている」
影の連邦の黒装束の男たちが、夜の闇から一斉に襲いかかる。
俺は手早く護符を展開し、白夜は尾を鋭く振りかざした。
激しい交戦が始まった。
敵は人数こそ多いが、個々の力は我々と同等かそれ以上。
ただの呪術ではない、古代の禁術を操る者も混じっている。
白夜の尾が何度も黒装束の影を斬り裂き、俺の護符が呪詛を跳ね返す。
「主よ、油断するな!」
彼女の声に我に返り、俺は集中を高めた。
連戦で疲労は溜まるが、負けるわけにはいかない。
この町に住む無垢な人々を守るため。
一瞬の隙をつき、影の連邦の一人が奇襲をかけてきた。
冷気が俺の胸を刺す。
「白夜!」
俺の叫びに、彼女は即座に動き、敵の攻撃を身を挺して防いだ。
その瞬間、俺は思った。
彼女は単なる式神ではない。
俺の魂と深く結びついた存在だ。
傷つけられれば、俺もまた痛みを感じる。
戦いは熾烈を極め、街は騒乱に包まれていった。
影の連邦の尖兵が徐々に戦線を押し上げ、俺たちは押され始める。
「撤退の指示が来たようだ」
白夜が冷静に告げる。
「奴らは今回、撤退するが必ず戻ってくる」
俺は深く息を吸い、拳を握りしめた。
「次は絶対に負けない」
その言葉が、冷たい夜空に強く響いた。
戦いのあと、俺は町の古物商を訪ね、影の連邦に関する情報を集めた。
「影の連邦は、かつて闇の術師たちが結成した組織の残党だ。
呪術の禁忌を操り、拝み屋や式神の力を狩る」
店主はそう説明した。
「やつらが狙う力は、闇の源泉ともいえる」
俺は頷いた。
「これから先は、警戒をさらに強めねばならん」
白夜も静かに頷いた。
俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
その夜、静かな部屋で俺は白夜と向かい合った。
「影の連邦の動きを止めるには、俺たち自身がもっと強くならねばならない」
白夜は静かに答えた。
「共に研鑽し、契約の絆を深めよう」
俺は強く決意した。
「絶対に、守る」
彼女の瞳に映る未来は、まだ闇の中にあったが、確かな光が射し込んでいた。
夜の静寂の中、俺は白夜の瞳に映る決意の光を見つめた。
闇の中でさえも、その光は確かに輝いていた。
「強くならなければ……俺たちの絆をもっと深く」
そう自分に言い聞かせ、俺は立ち上がった。
部屋の窓から差し込む月明かりが、まるで背中を押すようだった。
白夜は静かに微笑み、柔らかな声で言った。
「主よ、明日から特訓を始めましょう。
契約の力を最大限に引き出すために」
俺はうなずき、拳を握り締めた。
その日から、俺たちの生活は一変した。
朝は町の雑踏に紛れ、昼は情報収集と準備に費やし、
夜になると互いの力を磨き合う修練の日々が続いた。
白夜は式神としてだけでなく、教師としての顔も見せ、
俺の弱点や未熟な部分を丁寧に指摘し、
新たな呪術や戦闘技術を教えてくれた。
最初はぎこちなかった呼吸や動きも、徐々に滑らかになり、
俺の体と魂が、白夜とともにひとつに溶けていく感覚があった。
ある夜、修練の終わりに俺は問った。
「白夜、お前は何故、そこまで俺に尽くすんだ?」
彼女は少し驚いたように俺を見つめ、しばらく沈黙した。
やがて、静かに口を開いた。
「主の魂は、私の契約者としてだけでなく、
かけがえのない存在だからです」
その言葉に、俺の胸は熱くなった。
「俺も同じだ。お前は単なる式神じゃない。
俺の心の一部だ」
その夜、俺たちは言葉以上の絆を確かめ合った。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。
数日後、町の東錬区で不穏な事件が起こった。
突然現れた異形の怪物が人々を襲い、街は騒然となった。
俺は急ぎ現場へ駆けつけ、白夜と共に応戦した。
怪物は異常な力と速度を持ち、通常の呪術では歯が立たない。
戦いの中で、俺は影の連邦が新たな実験を重ね、
怪物を生み出していることを確信した。
「奴らはただの狩人ではない……」
白夜の声には焦りと怒りが混じっていた。
「もっと強大な力を求め、禁忌を犯している」
俺たちは必死に戦い、町の住人を守り抜いた。
だが、この戦いで俺は痛感した。
「俺たちはまだ、奴らに対抗するには力不足だ」
その夜、俺は決意した。
「もっと強くなる。白夜と共に、どんな闇も打ち砕くために」
彼女は穏やかに微笑み、俺の手を握った。
「共に歩もう、主よ」
俺たちは新たな決意を胸に、夜明けの空を見つめた。
遠くで鳴る鐘の音が、未来の戦いを告げているようだった。
翌朝、陽の光が部屋に差し込む頃、俺は目を覚ました。
昨夜の決意が胸に熱く燃えている。
白夜はすでに起きており、窓辺で静かに外の景色を眺めていた。
「主よ、今日は新たな試練の日だ」
彼女の声は柔らかくも力強い。
俺は身支度を整え、白夜と共に修練の場へ向かった。
その場所は、町の外れにある古びた神社の境内だった。
自然の気配が強く、霊力が満ちている。
白夜は俺に言った。
「ここで契約の奥義を習得しよう」
俺は深呼吸し、集中を高めた。
まずは、魂の呼吸法。
それは己の内に眠る霊力を整え、拡張する術式だった。
次に、白夜が示す型に従い、動きを合わせる。
風のように柔らかく、しかし鋭く。
何度も繰り返すうちに、俺の身体は徐々に変化していった。
筋肉の動き、呼吸のリズム、全てが調和していく。
「良いぞ、主よ」
白夜の声が励ます。
訓練の最中、突然境内の空気が変わった。
遠くから不穏な気配が迫る。
俺は咄嗟に身構えた。
「敵か……」
白夜も鋭く尾を振り、警戒を強める。
影の連邦の尖兵が、再び俺たちの前に現れたのだ。
戦いは避けられない。
俺は護符を取り出し、結界を展開。
白夜は優雅に尾を振り上げ、攻撃の構えを取った。
激しい闘いの中、俺は修練で得た新たな技を駆使し、敵の術を封じていった。
白夜も力を増し、攻撃がより鋭く、速くなっている。
戦いは一進一退の攻防となったが、俺たちは決して後退しなかった。
その瞬間、俺の内に強烈な霊力の奔流が走る。
「これが……契約の真髄か」
魂の結びつきが限界を超え、身体が光に包まれた。
白夜も共鳴し、二人の力が一体となる。
「今だ、主よ!」
俺は咆哮とともに全力の一撃を繰り出した。
敵は大きく怯み、隙を突いて退却を余儀なくされた。
静寂が戻る中、俺は深く息を吐き、白夜と見つめ合った。
「俺たちは強くなった」
「ええ、主よ。これからも共に進みましょう」
夜空に輝く星たちが、俺たちの決意を祝福するように瞬いていた。
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