ディスター

綾穂

プロローグ

この世界は、ごくまれに“歪む”。



例えば、体を武器に変化させる。


例えば、触れずに物を弾き飛ばす。


例えば、——そんな、「ありえないこと」を人に与える。



人はそれを、「歪み」と呼ぶ。



その力は人を傷つける。


蝕み、狂気を与える。



ある時、ある者が特殊な部隊を設けた。



「歪形科」



歪みを持つ者で構成された、小さな対処部隊。



その一人が今、任務の真っ最中だった。






「空気を固めるなんて、便利な歪みだけどさ」



高い声が真っ暗な通路に響く。



歪形科の青年ケイは、丸腰で1人の男と対峙していた。



男は両腕を掲げて、盾のような空気の塊をつくっている。



途端にケイの右手、人差し指と中指が変形する。


鉄の色に変色し、鋭利な刃が光を放つ。



男は震えていた。


男が次の一言を発する前に、彼は懐に潜り込んだ。



「悪いけど、使い方が単純すぎるよ」



指だったものが、塊を裂いた。



男がもう一言発する前に、胸に激痛が走る。







世界から、静かに音が消えた。


暗闇が訪れ、体が落ちる。




ケイはそれを一瞥し、その場を去っていく。




黙々と歩みを進める。




歪んだ道を進み続ける。

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