【1章完結】メーカー&プレイヤー 〜異世界の勇者がVRMMOを攻略するそうです〜
炭比谷きとり
序章 魔王城への道
洞窟というわりには整備された通路。等間隔に設置された篝火。魔王城へ続く洞窟迷宮で僕たちは多数の魔物に足止めされていた。
「おいニーナ! お前の魔法で一気に吹き飛ばせないのか!?」
前衛で大きな盾を構えるイーサンが叫んだ。
「こんな狭い場所で使ったらアンタたちも巻き込むわよ! それでもいいなら、やるわ! 自分の身は自分で守りなさい! 【火よ――」
「ダメだから!? 詠唱止めて!」
「聞いてきたのはそっちでしょ!」
「許可はしてないよ!」
味方を巻き込むなんてとんでもない。
派手に暴れることが好きな彼女は、仕方なさそうに無詠唱の小規模な魔法で魔物を一体ずつ攻撃していく。一撃で倒していく精度と威力は頼りになる。
けれど――
「さ、流石に数が多すぎます……!」
両手に持ったナイフで魔物を斬りながら、ルシルが嘆いた。隠密行動を得意とする彼女には分が悪い戦いだ。
現れたスライム状の魔物は初めて見る種類のものだった。スライムに顔はない。けど目の前にいるそれは大きな丸い目と笑っているかのような口があった。いざ戦ってみれば見た目どおり大したことはなくて、攻撃は体当たりや口から魔法を放つぐらいでどれも単純だ。
問題はその数。倒しても倒しても、一向に減る気配がない。この先魔王城に続くまでこいつらで溢れているんじゃないかと思うぐらい、次から次へと現れる。
「ルシルさんの言う通り、これでは消耗戦。早くここから脱したほうがいいですね」
後方からサポートをしてくれているウィズダムが呟いた。僕たちはウィズって呼んでいる。
「冷静に分かりきったこと言ってないで、アンタも戦いなさいよ!」
「やれることはやっていますよ!」
ウィズは元々医者だから仕方ない。けど彼のサポートは優秀で頼りになる仲間だ。
襲ってくる魔物を剣で倒しながら、後ろの様子をちらりと見る。白衣を纏ったウィズが僕たちに回復魔法や強化を施してくれる。あまりの敵の多さに、僕、イーサン、ルシルで全てを防ぎきれない。倒し損ねた魔物は無防備なウィズへと向かうが、一匹残らずニーナが仕留める。口ではああ言ってるけど、相手を信頼しているからこその動き。
けれど終わりの見えないこの戦い。このままだといつかは――
「レオ! 前の二人を下げてください!」
「下げるって、どうするのウィズ!?」
「要は巻き込まなければいいんです! ここは一本道で幸い後ろから敵は来てません。彼女の後ろに下がって一発撃ってもらい、そこを一気に駆け抜けましょう!」
「なるほど……二人とも聞こえた!?」
「おう!」
「は、はい!」
同時に、後ろからニーナの詠唱が聞こえる。敵を牽制しつつ、ゆっくりと後退する。
はたから見れば押されているようで、実際僕たちは押されていた。でも今度は違う。ルシルを先に下がらせて、詠唱が終わるまで、ギリギリの場所で僕とイーサンで足止めする。
「【――て】」
「イーサン!」
ニーナの直ぐ後ろにイーサンが滑り込んで盾を構える。その後ろに僕とルシルとウィズ。
「【
彼女の杖から業火が放たれる。魔物の心臓ともいえる魔石さえ消し炭にしてしまいそうだ。僕らへの影響はイーサンの盾とウィズの防熱魔法で少ない。二人の支援があってなお、熱が肌を撫でた。
……さっき止めて正解だった。まともにくらえば本当に命がない。
「何ぼーっとしてるの!? さっさと行くわよ!」
「――! ごめん、一気に行こう!」
まだ気を抜いちゃダメだ。ようやくここまで来たんだ、ぐずぐずしていられない。
四人の背中を追って、ニーナが開けてくれた道を一気に駆け抜ける。
僕らの足音と装備が揺れる音が洞窟でリズムよく鳴っている。篝火の前を横切れば大きな影が生まれては消えていく。さっきまで沢山いた魔物が出てくる気配もない、穏やかな時間だった。
村のみんなは僕に魔王を倒すのは無理だと言った。村をめちゃくちゃにされた悲しい顔で、何もかも諦めてしまったような。許せなかった。みんなを苦しめた魔物を、魔物を生み出す魔王を、やられたままを受け入れる村のみんなを、何もせずじっとしている僕を。
最初は一人で始めた冒険も、今はみんながいる。ニーナも、イーサンも、ルシルも、ウィズ……はルシルにつられてるだけかもしれないけど。魔王を倒すために一緒にここまで来てくれた。
四人の前に駆け出る。
そのときだった。
「きゃあっ!」
「おうぅと!」
「何!?」
突如洞窟が激しく揺れだした。バランスを崩しかけて、なんとか踏みとどまる。
「み、みんな大丈夫!」
「おいおい、さっきのがまずかったんじゃないのか!?」
「あ、アタシのせいじゃないわよ!?」
「魔王城前の迷宮ですからね、何が起きてもおかしくありません」
「冷静すぎて腹が立つわね!」
上からパラパラと小石が降ってくる。進むことはおろか、まともに立っているのも難しい。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「ルシル!?」
彼女のほうを見ようとして、浮遊感に襲われた。
「え?」
「あ」
「なっ」
地面がなかった。
僕だけじゃない。洞窟そのものが崩れ、先の見えない闇の中へ落ちていく。
「レオ……!」
ニーナが手を伸ばす。僕も手を伸ばし返すが、掴むのは空ばかり。
「あとすこ、し……!」
あと少しが続くばかりで、手が届くことはついになかった。その後のニーナが、他の三人がどうなったのかは分からない。落ちていく途中で僕は気を失ったからだ。
どうせ死ぬなら、魔王を倒してからが良かった。
今までの旅路が遊びのように、あっけなく死を与える所業。これが魔王の仕業でなければ何なのだろう。魔王が人前に姿を現すことはなく、全ては配下の魔物に人を襲わせる。もしくは、魔物の住処となる迷宮を生み出しては街や自然を壊していく。
赦せない。悔しい。力を貸してくれた四人を巻き込んで、何も出来なかった自分に腹が立つ。
意識が途切れる直前まで、僕は魔王を倒すことを諦めきれなかった。
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