追放された魔術師は道中助けた獣人の子と旅をします!~助けた子が獣人じゃなく獣とサキュバスのハーフだった。魔力が気に入ったからもっと食わせろって迫ってくるんだが!?〜

蒼本栗谷

第一章 愛故の行い

第1話 愛ある追放

「ロワイヤル! 本日をもってお前をこの"ホープ・オブ・ロード"から追放させてもらう!!」

「――――な、な、なんでぇぇ!!!?」


 追放宣言された女顔の男――魔術師のロワイヤル、通称ロワの叫びが宿屋兼冒険者ギルド全体に響き渡った。

 リーダーはロワの叫びを聞き、焦ったように汗を流しすぐさま部屋の外に出て、何かを確認しだした。そして確認を終えたリーダーが部屋に戻ってくると、咳き込み不安げな表情をしてロワに説明する。


「お前気づいてないのか? 最近ゼルがお前を性的な目で見てることに」

「……せい……てき?」

「……お前はそのままでいてくれ……いやだめだ心配になる」


 リーダーはため息をつき額を押えた。仲間の女性達も呆れた表情をしつつ、心配そうな視線をロワに向けている。――その中今話題に上がっているゼルの姿はない。


 ホープ・オブ・ロードはランクつけされている冒険者ギルドで、最上級のAクラスパーティーーであった。故に誰も攻略出来ない過酷な任務が転がり込むことが多い。

 ロワはそのパーティーの魔術師であった。皆にバフを与え、相手にデバフを与え、時には攻撃魔法を使う――後方支援型だった。だが、ロワにはとある欠点があった。

 それは――


「ごほんっ! お前は、マナポーションを使いすぎだ! お前のマナポーションの為にいくら使ったと思ってる? 報酬七割お前のマナポーションで金持っていかれてるんだぞ」


 "一回の任務で数十本はあるマナポーションが一瞬でなくなる"――パーティーからすれば迷惑でしかない欠点。

 ロワは治すことが出来ない欠点を指摘され、苦い表情をした。だが、パーティーメンバーからはマナポーションの消費が激しいことは建前でしかない。本命は、危ない貴族出身の男からロワを守るためであった。

 

「それでもいいって言ってただろ!?」

「色々環境が変わったんだよ! とにかく! お前は追放だ! ほらこの道具に退職金やるから早くここから出ていけ!! ゼルに見つかる前に!!!!」

「なんでそこでゼルの名前が出てくるんだよ!!? ちょっ、まって、まだ話終わってない!!」


 リーダーはすでに準備していた道具袋をロワに押し付け、部屋から追い出そうとした。無論納得出来てないロワは必死にリーダーに話をしようとするが、仲間によって部屋から、ギルドからズルズルと押されていく。


「貴方の貞操を守るためなの……!! 本当はゼルを追い出せたらいいのに……! これだから中途半端に権力を使ってくる貴族は!」

「あんな男にこんな純粋な子の尻が掘られるなんて……考えたくないの!! ごめんね!!」

「待って何!? 貞操!? 尻!? どういうこと!?」

「またね!! そのまま純粋でいてね!! 穢れないでね!」

「まっ――うわぁ!!?」


 悲しそうに語る仲間達の発言に、何も分からないロワはただただ困惑するだけ。


 ロワはゼルに貞操を狙われていた。

 男だというのに女のように可愛らしく、23歳だというのに性知識がない純粋さをもっており、一部の人達から性的な目で見られるほど魅惑な人物であった。

 当初、18歳のロワを引き入れたホープ・オブ・ロードのパーティーメンバーは思った。『やばい。凄く守りたい。手元に置いてずっと眺めてたい』と――



 ドンッと背中を押されロワは地面に滑って転んでしまう。それを心配げな表情で仲間は見つめ、だけども何も言わずギルドの中へ戻って行った。

 

「いてて……なんなんだよ……もう……」


 眉を下げ、不機嫌な表情をして文句を呟く。ゆっくりと立ち上がり、地面に滑って転んでしまった時に落とした道具袋を拾い、ロワはため息をついた。


「……これからどうしよっかなあ。ソロで依頼をやる? 魔術師の俺が? うーーん……ゆっくり決めればいいか!」


 道具袋を持ち、追放されたというのに全く落ち込む様子を見せず、ロワは街中を歩く。その際ロワは仲間からの言葉思い出し、フードを被った。『お前の為だ』――その言葉の意味を、ロワはまだ理解出来ていない。

 暫くあてもなく街を歩いていると、気になる声がロワの耳に入った。


『や、めて』

『こんの泥棒! 何度言ってもわからねぇのか!?』


「……」


 女の悲鳴に、男の怒鳴るような声。ロワは声のする方へ一直線に向かっていった。


 向かった先は人気のない路地裏。そこに――彼女はいた。


「ぅ、うう……」

「また泣き真似か!!? 今度という今度は許さねぇからな!!」


 料理人のような服を着た男が蹲っている少女を蹴っていた。気分が悪くなってしまいそうな光景を見て、ロワの心に熱い感情――怒りが湧き上がっていく。

 こんな小さな子を痛めつけるなんて!  ロワは歯ぎしりをして男に向かって叫ぶ。


「――やめろ!!! 『ウィンド!!』」


 虫のようなデザインの杖を男に向け、ロワは魔法を唱えた。途端、暴風が路地裏に現れ、ゴミが、壁についている機材が飛んでいく。

 暴風で立っていることが出来なくなった男は近くにあった壁に捕まり悲鳴を上げる。


「な、何が起きてんだぁ!!?」

「ちょっと抱くよ! ごめんね!」

「ぇ……? きゃっ!!」


 

 男が突然の暴風に気を取られている隙にロワは少女を抱き上げ路地裏から出て街中を走る。街中へ出た際、杖に道具袋を吊り下げ、背中で杖を固定し、両手は少女を横抱きにする形へと変える。そこでロワは気づく。


(あれ、この子……獣人か)


 少女についている獣耳と尻尾を見てロワは目を丸くさせた。だがまずは安全な場所まで行こうと思い、適当な宿屋を探し街を走っていった。

 

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