Ⅷ‐Ⅰ 久しぶりの衝突

 翌日。


 私はいつも通り早くに目覚め、屋敷の稽古場で朝の日課である鍛錬を始めた。


 もともと現実世界にいたときも毎朝ランニングや筋トレをしていたため、ぶっちゃけやることが変わっただけだ。筋トレに加わり剣の素振りや魔法の練習、他に早く起きて相手がいれば模擬戦や受け身の練習など、正直現実世界よりも厳しい環境なのだが、私個人的には前よりも充実した生活を送れている気がした。


 昨日ブリッツさんにしごかれてから私は心機一転で鍛錬を始めた。


 今思えば、己がどれだけ思い上がっていたかがわかるいい機会だった。


 今日はブリッツさんのほうは普通に仕事があるらしいから稽古をつけてもらうことはできないが、次の遠征までには何とかなるでしょ!


 とにもかくにも私は強くならなきゃならない。


 絶対魔王倒して現実世界に———————







 帰りたい人だけ、帰れるようにするんだ。


***



「—————ホント、紅葉頑張ってるよね最近」


「・・・・・・うん」


 少し遅れて起きた美咲と睦月は稽古場で一人でひたすら練習している紅葉を窓から見下ろしていた。


 さすがに紅葉みたいに朝早くから動けるほど体力があるわけではないので彼女たちは上から微笑ましく見守るだけだ。


「・・・やっぱり、ちゃんと誰かに相談しよ?私は話聞くし、違う誰かだっていい。・・・そろそろ心配だよ?」


「――――――うん、わかってる。わかってはいるよ・・・・・・」


「・・・もしかして、もう戦いたくなかった?」


「ううん・・・そうじゃない。そうじゃないの・・・・・・私が、私がただ———モヤモヤしているだけ」


 睦月はうーんと首をひねりながら美咲を見た。


 美咲と仲良くなりだしたのは今年、高校生になってからだ。


 付き合いだけで言えば睦月よりも断然彼女の親友の紅葉のほうが長い。


 だが今回は—————


「——————もしかして悩んでいるのって紅葉のこと?」


「—————————っ?!」


 美咲はあからさまに動揺した。


 どうやら図星のようだ。


 睦月の知らぬ間に、二人の間で何かあったのだろうか?


「・・・喧嘩しちゃったの?仲裁入ったほうがいい?」


「喧嘩はしてないよ?!・・・ただ私が一人モヤモヤしているだけだから」


 それもそれで気になるのだが・・・


 異世界に来てから、睦月は紅葉と美咲の関係が少し変わったような気がした。


「やっぱり、話してほしいかな。・・・紅葉にもちゃんと話さないから」


 もし何かわだかまりがあるのなら、話してほしい。


 睦月にとって紅葉と美咲は大切な本音でも語り合えるような数少ない友人だと思っている。


 なるべく助けになりたいのだ。


「——————ありがとう。・・・・・・実はね————————」



***


 紅葉が訓練場から帰ってきて30分くらいすると、朝食の時間になった。


 いつも通り美咲と睦月といっしょに屋敷の大広間で食べているのだが・・・


「・・・・・・」


「・・・・・・」


 カチャカチャと食器がぶつかる音だけが響く。


 なんか、すごく気まずい空気だ。


 私、なんかしちゃった?


 静かな食卓は苦手だ。


 いやマジで本当に。


「・・・・・美咲と睦月は、今日ご飯食べたらいっしょに鍛錬場に来る?それともミラさんと先に勉強してくる?」


「え?!えーっと・・・・・・わ、私たち先にミラさんのところでべ、勉強してくるよ!きょ、今日は!」


 睦月・・・おまえ嘘、下手すぎだろ


 あの美咲ですらほんのり呆れ顔になっているぞ・・・?


 ・・・・・・


 おかしい。


 いつもならこのタイミングで美咲の鋭いツッコミが来るはずなのだが・・・・・・


 ・・・・・・。


 何かあったのは美咲のほうだな?


「・・・美咲、そろそろ怒るよ?」


「ちょ、ちょっと紅葉?!」


「あんまり言いたくはなかったけど美咲、いつまでうだうだとしているつもり?私がそういうの嫌いだっていうこと、知ってるよね?」


「・・・・・・わかってる」


「————っ!じゃあなんで—————!」


「いつまで、ずっと鍛錬ばっかしているつもりなの?!」


「—————は?」


 なに、言ってんの?


 どういう——————


「確かに元の世界に戻るために頑張んなきゃいけないのは確かだよ!私は早く現実世界に戻りたい!、戻りたい私たちのために全力で魔王倒そうとしてくれているのもわかってる!・・・・・・でもさ、ちょっとは休もうよ?」



 美咲は私のことを思って言ってくれているのだろう。


「—————でも、休んでる暇なんてないでしょ?・・・美咲は一刻も早く現実世界に帰りたいんじゃないの?」


「帰りたいよ・・・?だけど紅葉に倒れられて欲しくない。無理はしないでほしいだけだよ」


「だったら私はまだ大丈夫。ぜんぜん動けるから」


「嘘つかないで。じゃあその手の怪我は何?またミラさんに治してもらうの?ミラさん言ってたよね?回復魔法を使いすぎると効力が落ちる可能性があるって?ここ最近何回ミラさんのところ行ってるの?私が見てる限り7回はミラさんのお部屋行ってるでしょ!」


 む、むぅ・・・・・・


 そんなにみられていたのか・・・


 

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