Ⅴ‐Ⅴ いつかお礼をさせてくれ

 あれから1週間が過ぎた。


 今俺たち蒼琉たちはミラ王女の屋敷にいる。


 アグア王国第4王子ヴァローナ・アグア一行も今はこの屋敷に泊まっている。


 また誘拐などが起こらないようにするため、明日俺たちと一緒に王都に向かうことになっているのだ。


 国内でも有数の戦力となっている俺たちはかなり重宝されているらしい。


 実際、俺らはどれだけ強いのだろうか?


 正直あまりよくわからない。


 よく漫画であるインフレの加速みたいになる気もする・・・


 その話は置いておくとして、ここ数日は穏やかな日々を過ごすことができた。


 ここ最近俺は、鍛錬に時間以外はこの国の学問について学ぶようになった。


 おかげさまでこの世界の歴史や地理、社交術、魔法学などを詳しく知ることができた。数学や科学に関してはこっち現実世界のほうが進んでいたが・・・

 

 現実世界に帰ったときに無駄だと思っていたが、いざ学んでみると楽しものだ。


 もともと俺は何かを知ることは嫌いじゃない。


 むしろ好きなほうだ。


 久しぶりに勉強が楽しく思えた。


 —————向こう現実世界に戻っても、楽しんでできるだろうか?


 ・・・おそらく無理だ。


 本当は今すぐにでも、現実世界の勉強をしなければいけない。


 俺は、期待に応えなきゃいけないんだ・・・

 

 ・・・話を変えよう。


 件のヴァローナ・アグア第4王子誘拐に関わっていたフォルミカ男爵は、爵位と領地を没収された。


 俺はまだ法律や裁判がどれだけ正しいのかがわからないから何も言えないので、まあ二度とやらないなら何でもいい。


 しかしクロウ・・・ヴァローナの正体が王族だったとは。


 全然そんな格好には見えなかったが・・・・・・


 後から聞いた話では、第4王子と言っても妾腹の生まれだったのを養子として迎えられて今の地位にいるらしい。


 本人曰く「自分は王になる資格がない」て言ってるが、十分素質はあると思うぞ?


 ・・・俺がどうこう言える立場ではないが。


「—————余計なお世話だ、ソウル。・・・それに血筋だけじゃないんだよ。王になれるのは」


 ・・・なんで考えてることわかるの?


 顔に出てた・・・て、顔に出る内容か?これ?


「——————なんとなく似ているんだよ。俺とおまえソウルは。だからわかる気がする」


 そういうものなのか?

 

 しかし俺とヴァローナが似てるか・・・いや、ないだろ。


 おまえヴァローナ俺ほど無愛想じゃないだろ。


 

「—————いや、結構似てるでしょ」


 ・・・おまえ美咲も何故俺の心を読める?


「けっこう付き合い長いからでしょ。・・・ま、私はわかんないけど。それはそれとして、あんたらはやっぱ似てるよ?」


 おまえもそういうのか、紅葉。


 本当にどこが似ているんだ?



「ここ最近見てて思ったけど真面目なところ」


「プライド高そうなところ」


「日々努力を惜しまないところ」


「いろいろ言葉とかが足りないところ」


「一人でなんでも抱え込むところ」


「スケベなところ」


「なんだかんだ言いながら優しいところ」


「生意気なところ」


「紅葉ちょっとこっち来なさい」


 そういって美咲が紅葉の手を引っ張り部屋の外へ連行していった。


 これ怒られるパターンだ。


 紅葉頑張れ。


 ・・・正直俺はかなり当てはまると思うがコイツはあんまり当てはまらないだろ。


「————小鳥遊君って、けっこうヴァローナ君に甘いよね」


 今までずっと黙って本を読んでいた相原が目線をヴァローナに向けて会話に参加してきた。


「そう?だけどまあ、嫌いじゃないよ?俺が知らないこといろいろ教えてくれるし」


「逆にソウルは俺の知らないのことについて教えてくれる!そんな世界があるなんて信じられないよ!」


 まあとにかく、ウィンウィンな関係が取れてるってことだ。


 最初はただ生意気なクソガキだと思っていたが、話してみると案外仲良くなれるものだ。


「————そんなこと言ってるから蒼琉は友達が少ないんじゃないの?」


 美咲に許されたのか、紅葉がマドレーヌをかじりながら部屋に戻ってきた。


「あれ?渡邊美咲さんは?」


「今厨房からおやつはこぶの手伝ってる。はい、これマドレーヌ」


 俺たちの分もちゃんと皿ごと持ってきたらしい。


 そうじゃなかったら戦争を起こすところだった。


 俺も食べたいし。


「ここのお菓子おいしいんだよね~。うちにも欲しいくらい」


「あれ?ミランさんとかに作ってもらったりしないの?」


 不思議そうに相原が訪ねた。ヴァローナはうつろな表情になりながらマドレーヌを一つに手に取った。


「・・・・・・ミランの手料理は・・・・・・・うん、かなり個性的だよ?今度食べて見る?」


 察した。


 あまりこれ以上聞かないでおこう。


「はーい!お菓子持ってきたよ~」


「コーヒーもあるよ~」


 メイドのソフィアさんに交じり、美咲とミランさんがクッキーやカップケーキを持ってきてくれた。その後ろには、ナンパ師草薙の姿もあった。


 「街で女の子たちと戯れてくる!」と言っていたはずだが・・・あの野郎ちょうどおやつのタイミングで帰ってきやがったな。


「あぁ、麗しきメイドさんソフィアさん!あなたはまるでこのコーヒーの上のクリームのような甘さを持ちながら、奥底には大人のような苦みを備わっているとてもテイスティなお方です!どうでしょう?今から一緒にお茶でも・・・」


「あ、まだ仕事が残っているので遠慮しておきます。皆さまでおいしく食べていてください。・・・さて、戻りますよミランさん。先ほどの続きです」


「はい!師匠!」


 この二人の関係はどうなっているんだ?


 ヴァローナも同じことを思ったのか、俺の顔を見てきたが俺も知らんわそんなこと。


 ただ一人、美咲だけがニヤニヤとヴァローナのことを見ている気もした。


 後で聞いてみよ。


「—————そういえば、ヴァローナ君とミランさんって付き合い長いの?」


 美咲が何気なく訪ねてるように見えるが、俺にはわかる。


 これは獲物面白い話を捕らえたときの喋り方だ。


「・・・まあ、それなりには。だけど恋愛的な関係は一切ないよ?」


「・・・?私まだ何も言ってないよ?」


 ・・・・・・ヴァローナよ。


 おまえ危機察知能力高いな。


 こういうところは確かに俺と似ている気がする。


「・・・とりあえず、俺はアイツミランのことただの従者だとしか思ってないな?その割にはポンコツなところがあるから困るんだけどさ」


「そう?かなり完璧なメイドさんだと思うよ・・・・・・まあ、その、調理場に立たなければ」


 あー、やっぱ料理はできないのね。


「————だってアイツこの前間違えてフザン王子宛ての書類を燃やすところだったし、毎度毎度料理は焦がすし、この前俺が誘拐された時だって初めての街には目外しすぎて俺と二人で歩いていたら『カワイイ姉弟だね』って言われるし————」


 あぁ。


 コイツ、やっぱりミランさんのこと————



「—————そうだ。あらためて言わせてくれ」


 ん?


 俺は口に運びかけたマグカップから目線をヴァローナに向けた。


「—————先日救っていただき、誠に感謝いたします。・・・・・・この恩はいつか変えさせてもらうぞ?ソウル」


「・・・・・・俺は何もできていないぞ?」


 俺はマグカップを置きながら、ヴァローナのほうに体を向けた。


 結局、俺一人では守りきることができなかった。


 そんな奴に恩もなにもあるか。


「————それでもソウルがいなければ俺は死んでいた。・・・だから、そう卑屈にならないでほしい」


 確かにヴァローナの言うことは一理ある。


 俺は完全に何もできなかったわけではないし、時間稼ぎとして考えるなら十分に役割を達成できた。


 










 ただそれだけじゃ、駄目なんだ。




 俺は完璧に、一人ですべてを成し遂げられなければならない。


 おじい様なら、そうでないと認めてくれないのだから。

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