漂白した海の中で

1 漂白した海の中で


 流星群が飛び合い

 微粒子が調和し

 光に包みこまれる

 規則が幾重にも重なり

 人に見えない因果で

 宇宙を動かす


 人もやがて

 この規則の世界に入る

 その時が人類の成熟期だ


 宇宙を動かす

 真の世界革命

 その時はまだやってこない

 人類にそれはできない

 無限に等しい微粒子の群と

 無限に等しいエネルギーの流れ

 

 ああ、人類には触れがたきもの

 思考も想像も追いつかない

 そんな巨大な宇宙市民に

 人は立ち向かえるのだろうか


2 無題


 ないている側で

 わたしじゃない人が

 紅い光を放ちながら

 わたしのふりをして

 戸を開けて助けを求めた

 そうして、わたしは助けられ

 わたしじゃない人は

 また焼け死んだ


3 無題


 何億年と何兆年と

 時を積み重ねていった

 わたしの意識はもう還らない


 青春と晩秋が重なりあい

 私たちは不思議な

 モノグラムに時間を費やしていた


 緩やかに波を駆け上がり

 魔法で空を蒼く染めた

 そんな記憶も懐かしい


 クラシックがずっと耳に残り続ける

 けれど、その意味はまだ解き明かせはしなあい


 存在する不思議

 彼はそんな事を考えたことはないという


 彼は命をふたたび授けられ

 いまはわたしと眠る人


 ずっと、気がかりなものは気がかりで、

 何も成し遂げはできなかったが、

 こういう時間だけがわたしの時間だ

 

4 無題


 蟻が肌を歩く


  (楽しい)

 

       「魚を一つ」


 雨が降って、今日は完結した── 


 傘がダンスをする


  (嬉しい)



       「今日は丸焼き」


 子ども達が彼女を迎えて、今日は完結した──


 セーシェル島で魚を食べる


  (寂しい)


       「ちょっと腐ってる」


 腹を壊して、今日は完結した──


5 無題


──(寂しい泣き声)

 泣いているんじゃない

 生きているんだ


「どうして私の分も買ってくれなかったの?」

(紙吹雪が舞う)

 怒ってなんかない

 生きているんだ


 そっと、涙が洗面台に落ちて

 水面で言葉が二重に響く

「何にも分かってないじゃない!」


 必要なものなんて何もない

 心なんていらない


 ただ、感じていたかっただけ

(でも……)

 そんな事は伝わらないものだ

 わたしはそっと涙を拭った

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