初めまして

「どうして、……どうして、こんなことにっ。父上からも、見捨てられた……ッ!」 


 どういった物理法則の元で成り立っているのか問いただしたくなる金髪縦ロールのツインテールに、宝石のような蒼い瞳を持ったおっぱいの大きな可愛い女の子。

 目元の泣きぼくろがチャームポイントな少女が頭を抱えて俯いているところを眺めながら、僕は自分の中の確信を確かなものにする。


 間違いない。

 彼女は僕の妹がやっていたゲームに登場する悪役令嬢のリーシア・ウィリアムズを眺める。


「(マジかぁ……マジかぁ、僕ってばゲームの世界に転生していたのかよ)」


 驚愕する僕は、この部屋に置かれている鏡に映っている自分の姿を眺める。

 そこに映るのは中肉中背で、黒髪に黒目。パッとしない、何処にでもいるような日本男児───としての姿が映っているわけではない。あの頃、妹がゲームをやっているところをソファで寝っ転がってみていたあの頃の僕の姿は鏡の中になく、あるのは角の生えた人ではない悪魔としての姿だ。


 ここまで、ここまで長かった。

 トラックに轢かれるという異世界ファンタジー世界に転生するにはもってこいの死因で亡くなった僕は悪魔としてこの世界に生を受けていた。


 未だ、神を名乗る者たちも活動をしていた時代。

 人が未だ猿であったときより最初に生まれた悪魔が一柱として生きてきて、既に一万年以上。もう既に人であるという感覚も希薄になっていた。

 無限の生を生きる中で、『怠惰』という名を冠して生まれた僕はその名に従って怠惰な生を生きてきた。

 悪魔として、気ままに生きる。怠惰の名を冠する者として、怠惰に生きる。


 それが、スロースたる僕だった。


 それに違和感など持っていない。

 この価値観は、あり方は長い時を生きる中で、自然と僕の中で形成されていったものだから。これもまた僕だ。


「お初御目にかかりますね。お嬢様」


 だけど、その生活が楽しいものであったかと聞かれれば嘘になる。

 娯楽なんて僕の隣でたまに音楽を奏でる悪魔の演奏を聞くくらいしか思い浮かばない寂しい生活を送っていたのだ。娯楽という快楽にどっぷり依存していた現代日本の男児としては娯楽に飢えていたところは多分にある。

 

「……だ、誰ッ!?」


 率直に言おう。

 僕はワクワクしている。

 この興奮は、悪魔として生を受け、魔法を一から作り上げようとしていた時以来か。


「おや?誰などとと……中々悲しいことをおっしゃられるのですね?貴方が召喚した悪魔だというのに」


「……私が、召喚した悪魔?」


「えぇ、私はスロース。貴方が召喚した悪魔ですよ。とはいっても、大した力のない悪魔ですが。あのたくさんの衆人の面前に委縮し、出ていけもしなかった臆病者な悪魔です。しかし、それでも悪魔は悪魔。最低限の働きは出来ると誓いましょう」


 あの日、見ていたゲームの世界の中で僕は生きていたらしい。

 プレイしていたのは妹だったが、そのストーリーは全部後ろから見ていたし、かなり好きなゲームだった。二次創作を買い漁ったりもしていた。

 そんな世界を、僕が作ったとも言える立場にいて、そして、これから僕は間近でこの世界を見て知って、体験することが出来る。

 心躍る。久しく忘れていた、人らしい感情が僕の中で膨らんでくる。


「さしあってはいかがなさいましょうか?貴方に失望して出ていった使用人の代わりでもいたしましょうか?」


 あぁ、これからどうしようか?

 ワクワクをそのまま笑みに変えた僕は、自分の前であっけに取られているお嬢様の前で優雅に一礼してみせるのだった。

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