第2話


「ひとつ聞きたいことがあるの。榊原教授について、寺尾さんからなにか伝えられたはずよね」

 

森山君は腹を抱えて笑いだした。


「あはは。消えたってさ。消えたんだって。この輪の中から抜け出せたってこと? 一体どうなっているんだろうねえ。前にも似たようなことはあったよ。前も前もその前も」


「前?」


「前は前さ。駅前のジジイとババアもいなくなったって。存在が確認できなかったって。消えちまった消えちまった消えちまった」


「不敬な言い方は控えて。駅前にいた人たちは神の使いよ」


「は?」


笑顔を硬直させたまま、森山君の動きが止まった。


「あなた気づいてる? 資料にあったあの物語を、この山の神が実現させてしまっているということに」


「神なんているわけないだろ」


「じゃあ、あなたはなんでこの輪の中に閉じ込められているの」


「知るかよ。もう、どうでもいいのさ。どうでも。殺しさえできればどうでもいい。俺はこの輪の中にいたいのさ。何度も何度も何度も何度も繰り返せる。楽しいねぇ。前は違う人もいたよ。そいつらもみぃんな、どこかへ行っちまった。殺してやりたかったのに」


私は溜息をついた。


「あなたには克服できないトラウマがある。何年苦しみ続けても、全然癒えない。だからここへ来たのよ。死ぬために」


「俺には確かにトラウマがあるさ。でも死ぬためってなんだよ。俺はこうして生きているじゃないか。ここにいれば、トラウマも忘れられるんだ。優越感に浸れるんだ」


「人に感じている憎悪を、生きている間に感じていた殺意を、この大学のメンバーに向けた。人を殺すだけ殺したら、最後は自分もこめかみを打ち抜いて死ぬ。結局、あなたはまだ死にたいと、どこかで思っているのよ。もう死んでいるのに」


「わけのわからないことを言うなよ」

 

森山君は憎しみのこもった眼で睨みつけると、トリガーを引いた。

 

私はすかさず呟いていた。


「わかよたれそつねならむ」

 

ざまあみろ。甲高く笑う声が響き渡る。私は心臓に痛みを感じながら、闇に呑まれていくのを感じていた。


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