18
ドルキを出発して5日でクロアの首都ディニに到着した。老婦人の言葉で吹っ切れてから、世界が前よりも明るくなったような気がする。今回乗った馬車の御者であるカーマンとは会話が弾み、クロアについて色々と聞くことができた。
「セガスさんはディニに移住ですか?」
いつも通りの質問だ。
「いえ、大陸横断の旅をしてるんです」
「それはすごいですね。リングスから始まってラミナまでですか?」
「はい、もうすぐで横断できそうです」
「けっこう時間かかったでしょう?」
「2ヶ月ぐらいですね」
「クロアに入ってからこの先のラミナまでは、リングスからロウワ―までよりも街ごとの間隔が広がって道も険しいのでさらに時間が掛かりますよ」
「何でですか?」
「ええ、大陸の西側は山がちな地形になってて平地が少ないので、どうしても街同士が遠くなっちゃうんです」
なるほど、ドルキまでも山がちでそこまでよりも時間が掛かったが、この先もあんな感じということは、想定よりも早くラミナに到着できるかと思っていたがそんなことはなさそうだ。
「クロアの福祉制度ってどんな感じなんですか?」
一番気になっていたことを聞いてみる。バルトの図書館で資料として読んではいたが、実際にどのようになっているのかを人から聞いてみたかった。
「代表的なのだとやっぱり医療費と学費が無料なことですかね」
「医療費と学費両方ですか?」
「ええ、なのでこの国では誰でも同じように教育を受けられて、医者の診察を受けられるんです。処方される薬は無料ではないんですが、それでも国が半分払ってくれるのでそこまで大きな負担にはならないんです」
「そうなんですね。じゃあクロアでは階層に関わらず教育や医療を受けられるんですか?」
「はい、この国では子どもの頃に全員が学校に通ってますよ。他の国にあるのと同じような高等教育の前に通う学校があって、そこに国民全員が6年間通うんです」
「じゃあカーマンさんも通ってたんですか?」
「はい、僕はその後高等教育は受けなかったんですけど、それだけでもこの国の教育水準は高いと思いますよ」
「すごいですね、そんなことができるなんて」
「その分税金は高いですけど、公共サービスや福祉として国民に還元されてるので、税金が高くても負担は大きくならないんです」
「何と言うか理想形って感じですね」
「確かにそうかもしれないですね。でも同じことをやろうとしても制度を整えるのに時間が掛かるうえに、その制度のためにお金が必要になるから、そのために税金を上げたら国民は反発するでしょう」
「確かに、クロアの福祉制度は長い年月の上に成り立っているんですね」
「ええ、現在の制度を整えた先人に感謝ですね」
全ての国に言えることだが、多くの人間を統制しながら安定して機能させるのは並大抵のことではないと思った。帝国が分裂して5つの国になってから、いや帝国の時代から時間を掛けて作り上げた先人たちを、俺はすごいという言葉でしか言い表せなかった。
ディニに着いてまず思ったのは、街を歩いている人の顔が明るいということだ。エルパムでも活気があり明るい印象だったが、ディニはそこまで活気があるわけではないのに、エルパムよりも明るい印象を受けた。
その違いは何かと考えてみたが、恐らくディニやクロアの人たちはエルパムや他の街の人と比べて、晴れやかな表情をしているのだ。クロアの福祉制度に満足して、心の余裕が表情に表れているということなのだろう。それだけクロアの福祉制度がいいものだというこの上ない証明になっている。
ディニに到着して一晩が明けた。今日は散策しようと思って街に出た。すっかり街並みを見て周るのが
このディニの街並みは、今までのどの街とも全く違った。建物の並びは他の街と同じだが、建物の外観が
特に豪華な外観をしていた領主屋敷や冒険者ギルド、大きな店はこの街ではあまり目立たなかった。もちろん他の普通の建物とは大きさが違うため見つけやすくはあるが、あまり装飾は施されていないため派手さがなく、ぼーっと歩いていると見逃してしまいそうだ。
ひとまず冒険者ギルドに入り、ディニの地図を買う。
「この街は建物の外観が質素ですね」
ギルドの受付で地図を受け取った後、受付担当に聞いてみた。
「そうですね、ディニに限らずクロア全体で建物は質素な外観をしていますよ」
ディニまでのクロアの街では、あの男のことしか頭になかったため、街を見ている余裕がなく建物の外観は全く覚えていない。
「何で質素なんですか?」
「国の方針ですね。この国の建物は全て国が建設・管理しているんですけど、建物にかける予算はなるべく抑えて、制度の方に予算を多く割いているんです。だからと言って一切手抜きはしてないですよ」
「なるほど、ありがとうございます」
お礼を言って冒険者ギルドから出た。
建物よりも制度に多く予算をかける。なるほど、この国の建物は全て国によって建設されているということは、国全体が公共事業として運営されているようなもので、建物のような実物よりも、医療や教育のようなサービスの事業を重点的にしているということか。クロアの政策方針がはっきりとしていて、何を大切にしているのかがわかりやすくていいな。
こういった政策から、街を歩く人の晴れやかな表情は来ているのだろう。ドルキで老婦人が言っていたことの根拠もそこからだろう。
クロアの政策に感心しつつ、地図を見ながら散策に戻る。次は王城の方に行ってみよう。
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