幽チューバーお琴

白物家電

第1話【閲覧注意】ガチで幽霊が出る墓地で配信してみたら…

『幽霊っているんですかね〜』


 日が沈んで、みんなが祭りで浮かれてる頃──

 私はスマホを片手に墓地に向かったの。


 誰もいない。いや、いるけど…。


 まずはカメラを墓地に向けた。

 地面、墓石、木立ち、遠くで鳴る花火の音。暗いけれど、雰囲気はある。

 私は声だけで配信を始めた。


「どうもー、こんばんはー。えー、本日はちょっと変わった場所からお届けしておりまーす」

「怖い場所とか、行ってみたくなりますよね?今日はですね……はい、墓地に来てまーす」


 カメラは墓石を映してゆっくりと横にスライドする。


「ちなみに一人です。お化けとか出たら叫ぶと思います、たぶん」

「というか、幽霊って本当にいるんですかね~?よく聞くけど、実際に見たことある人って少ないでしょ」

「でもまあ、今の時代、動画で証拠残せたらウケますし。ええ、バズりたいだけです。はい」


 軽いトーンで、私は墓地をぐるりと撮り続けた。

 映るのはただの静かな墓地。何も起きていない。


「ちょっとだけカメラこっち向けますねー。……え?何か見える?

 ……これ、冗談で言ってたんだけど……あれ、わたし……?」


 その瞬間、カメラが私の姿を捉える。

 白く浮かぶ顔、風に揺れる長髪、白装束、そして──透けた手。


「──はい、どーも。あたしでした♡」

「チャンネル登録、よろしくお願いしま〜す☆彡」


 動画は2分半。編集ナシ。エフェクトもつけてない。

 でも、その方が“リアル”ってことでウケる時代なんでしょ?


 ──さて、ここからが本題よ。


 今年のお盆は、ちょっと暑すぎる。──まあ、井戸の中にいれば気温なんて関係ないんだけどさ。


 でもね、今日の昼間、妙な気配がしたのよ。

 縁側に置かれた黒くてツルツルした板……スマホってやつ。

 このお寺の娘がお祭りで浮かれている間に、ちょいと失敬しちゃった。


 私は幽霊。江戸時代からこっち、ずーっとこの井戸に住んでる。

 けど、幽霊だって現代に生きてるんだから、情報くらい入ってくるの。

 近所の地縛霊ネットワーク(通称:霊電波)でね。


 駅前のガングロ女子高生のミキちゃんとは親友よ。最新の情報はみんな彼女から頂いているわ。

 最初のころは地縛霊って落武者ばっかりで、ちょー怖かったわ。見た目じゃなくて…。あーしを見つけたら1000人単位で襲ってくんのよ。死ぬかと思ったわ。あっこれ笑うところよ。


 ミキちゃん曰く──

「最近は“ゆーちゅーばー”ってのが儲かるらしっすよ」

「“さいせいすう”ってのでチョベリバっぽい?」

「生きてる人間の視線を浴びるのが、いまいちばん魂がイケイケ~」


 ──ふうん、つまり“バズ?れば浮かばれる”ってこと?


 そういうの、嫌いじゃないのよ。

 だって、あーし、江戸じゃちょっと有名な町娘だったの。

 髪結いの親方の娘で、町内じゃモテモテ。糸屋の娘どころじゃないわ。でも気が強すぎてね。

 ある日、とある問屋のバカ息子に言い寄られて、キッパリ断ったの。

 ……で、その夜、逆恨みされて井戸に突き落とされたってわけ。


 ま、未練ってやつよ。承認欲求っての?今風に言えば。


 アップロード完了。

 チャンネル名:【YUREI\_OKOTO】

 タイトル:【心霊】【ガチで幽霊が出る墓地で検証してみたら…】【閲覧注意】


 翌朝、スマホをそっと元の場所に戻しておいた。

 メモアプリにひとこと添えて。


「初投稿、観てくれてあんがと♪」 👻📱✨


 成仏?まだよ。

 推されてからにするわ。

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