第11話 着信音
スタジオには静かな倦怠感が漂っていた。皆、それぞれの椅子に沈み込み、深い溜め息をつく。誰もが燃え尽きていた。いや、満ち足りていたのかもしれない。
「…『燃え尽き症候群』ってやつか。今ならテトリスにすら感情移入して泣けそうだねぇ…。」
PRINCEの呟きに、KINGが笑う。
「テトリスか…。ディズニー・テトリスとかあったよなぁ。俺らもやるか?自社IPを使ったゲーム開発…。」
SMOKEは完全にB-popアイドルプロデュースに夢中でアニメ制作室には締め切り依頼入っていない。アニメ制作室ではVELVETだけが動いていた。彼女はタブレットを握りしめ、録音ブースの方へ向かっていた。
PRINCEが追いかける。
「私、あのエンディングのセリフだけは納得いってないの。録り直してくるわ。」
「あれは良かったよ。あれで泣いた人、すでにいると思う。」
「でも、私は泣いてない。私自身が泣けなかったの。あの声じゃ、キャラクターに命が入ってない。私はキャラクターに命を入れたいの。魂を入れてあげたいのよ。」
タブレットの画面には、彼女自身の音声をAIに学習させている途中の進捗バーがあった。彼女は自分の過去の泣き声、笑い声、怒り、ため息など、あらゆる『感情の音』を素材として取り込んでいた。
「VELVET、それ……まだやってたの?」
PRINCEが声をかけると、彼女はきっぱりと答えた。
「当たり前でしょ?締切は『提出』の話。私は、『完成』させたいの。自分の中でね。AIが私を学習してくれるなら、AIがショートするくらい学習させたいのよ。その…今後の作品のためにも…。」
「やれやれ…うちの女王様ときたら…手に負えないねぇ…。ここまでの完璧主義…見たことないね。」
その言葉に、全員の視線が集中する。
PRINCEがゆっくり立ち上がり、進行表を破った。
「よし、再編集版つくろ。副音声バージョンってことで。」
SMOKEが指を鳴らす。
「リマスターVerだな。音楽、もう少し静かにして感情に寄せてみる。」
KINGは苦笑しながら、背景ファイルを開いた。
「どうせやるなら、細かいところも直すか。ほら、ここの夜空、星が足りない。アフリカの夜空ってもんをよ、世界中の人に見せてやろうぜ。キャラクターがほとんど黒人なんだ。背景で表現しないでどうすんだ。さぼるためのAIじゃねぇ。俺らを進化させるためのAIだ。俺らがサボってどうするw」
録音ブースの中のVELVETを見てみんな自然と自分のPCの前に行く。
「俺らのやってた『裏稼業』ってのはよ、短期的には稼げても大した金にはならねぇ。でも、ディズニーとかジャンプの会社見てみろよ。何億ドルも何十億ドルも毎年稼いでやがる。しかも人を幸せにしてな。お前らも、 『家族に自慢できる仕事』をさせてやっから、全力でやろうぜ。俺らはマフィアでもアニメ・マニアでもねぇ。アニメ・マフィアだw」
アニメ制作室は爆笑の渦に包まれた。
録音ブースから漏れてくるVELVETの声。
「あなたの痛みも悲しみも、きっと誰かの勇気に変わるから……私が証明してみせる…!この国とあなたは私が守るわ…!王子様を待つだけのお姫様なんてイヤ!」
アニメ制作室の電話が鳴る。PRINCEが出る。
「ハロー。…はい。…はい。え?ハリウッド?」
全員に視線がPRINCEに集まる。
「あ、ハリウッドじゃなくてヒリウッド!?え?ルワンダ映画祭のヒリウッド!?」
全員が立ち上がる。
「え?B-popアイドルの動画とクラウン・アンド・ココアのトレーラー動画を見て!?ルワンダ映画祭に招待したい!?」
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