第9話
「実際彼ら彼が何を探り当てたかはわかっていません。調査にあたっていた探偵社のマンキー氏は事件の10日ほど前に失踪されていますので。
その事実と考え合わせればそう、この調査がパラップ氏の災難の原因となったと考えていいでしょう。調査書は……発見されなかったそうです」
浴びせかけられたライトの下、老執事は額に汗を垂らしている。それがライトの暑さによるものかそれ以外の理由によるものかは外からはわからない。
「失踪の理由は今ここでは聞きますまい。で すが一つだけお答え願いましょうか。
家元と初めて会われたのはあなたが出稼ぎに行っておられた鉱山惑星D-597でのことですね?」
「それは……その……そうでございます……」
老執事の答えに長い黒髪が揺れると群星は感に耐えないような口調で言葉を紡いだ。
「D-597、それは家元にとっても大切な惑星でありました。
銀河華洗流のパンフレットによれば、家元は若き頃より宇宙を放浪し、D-597滞在中にインスピレーションを受け、初めて銀河華洗流を名乗って生け花の展示会を開いたのがそもそもの始まりなのだそうです。
その大切な惑星において二人が出会ったことを知ったとき、パラップ氏は何を思ったのでしょうか。
自分の父親の失踪に家元が関係している?そう考えても不思議ではありません」
「お待ちください」
「お待ちください」
見事なユニゾンで声が入った。
それは家元の妻にして長女次女の母親であるミナ、マナ姉妹であった。
「さっきから聞いていれば」
「随分な言い方」
「今度は家元が事件に関係があると?」
「家元を侮辱することは」
「いえ、華洗流を侮辱することは」
「「許しませんよ」」
最後には二人息の合ったセリフが群星に投げかけられ、それに向かって探偵は優雅に一礼した。
「根拠のない妄言は怒りを誘発するだけのようです。
それではここで物証を出しましょう。犯行時刻の直前の生放送のビデオとCM中のスタッフとの会話のテープです」
※
ここで画面は切り替わり、かつて放送されたあの狭苦しい宇宙邸内の映像が映し出された。 この後起こる凶行を予想させるものは何一つとしてなく、ただ極彩色のコスチュームに身を固めたコメディアンが騒々しくがなり立てているだけだった。
「……とまあ殺風景な大宇宙をなんとかかんとか取り上げてみたんですけどね、これがなんと一ヶ月後には花で覆われるどころかなんと”流れる”ってんですねぇ。
CMの後にはその辺の銀河華洗流のイベント『華は流れる 宇宙の果てへ』……もうちょっとセンスあるのつけらんなかったのかね……とにかくそいつについてと、それとおいらからの重大発表アリアリでお送りしまっす!お楽しみに!」
と言って数秒の沈黙の後、Mr パラップの腹が立つほどの明るい笑顔から一気にテンションの下がった不機嫌な顔へと画面の中で変貌を遂げた。
『CM入りました!』
「お疲れ」
『ちょっと重大発表って何よ。台本にないよ?』
画面外から入るのはスタッフの声か。するとここはCM中で流れなかった部分なのかもしれない。
心配そうなスタッフの声にボトルの飲料を一気に流し込みながらMr パラップはニヤリと笑った。
「こっちでつかんだネタだよ。これ言ったらすごいよ?視聴率どどーんとくるどころか局長賞ものだよ?」
『とか言って放送禁止用語だったりしたら泣くよ?』
「ちゃうちゃう。ま、それぐらい衝撃はあるかも。……おっと」
何かに気づき自分の脇を見たMr パラップは 宇宙艇内のカメラに向かって手のひらを向けた。
「モバイルかかってんな。メールじゃなさそ う。
ちょっと映像と声消してくれ」
『あと2分しかないよ?』
「それまでに終わらすって」
『じゃあ本番30秒前には付けますんでよろしく』
「はいどうも」
画面が黒くなった。
そしてその1分30秒後に”あれ”が来るのだ。
※
「この後、画面が復活した時にはすでに彼の後頭部に何者かが一撃を加え逃走した後でした」
ナレーションとして入った群星の声に苦渋の響きを感じ取ったのはファンの女性たちばかりではなかったろう。
「彼が話そうとしていた重大発表とは何だったのでしょうか?このタイミングで殺害されたことと合わせて考えてもそれが彼を災難に至らしめた原因と捉えるのは無理なことではないと思われます。
彼の事件前の言動にそれを見合わすものはなかったでしょうか?彼はよく彼の番組で次のコーナーについてダジャレなどで匂わせたりしていたものです。
もう一度見直してみましょう」
画面に再びハイテンションな生前の姿が浮かび上がった。
『それとおいらから重大発表アリアリでお送りしまっす!お楽しみに!」
画面の中で生者の時間は固定された。身動き一つしないMr パラップの笑顔にかぶせて群星の声が響く。
「重大発表アリアリ……皆さん、このフレーズを覚えておいてください」
今や画面の中に写っているのは心配そうに成り行きを見守る関係者たち、そして全てを超越するかのように座ったままの家元の姿となっていた。
群星の声は真実のお告げを粛々と続けていく。
「そろそろこの事件の犯行方法についてお話しした方が良いでしょう。
死因は撲殺。後頭部を重くて硬いもので一撃されたのが原因とされています。
……そう、ちょうどこの家にコレクションされているような巨大な戦斧のようなものです。
では犯人はどうやってそれを持って宇宙艇に忍び込み、どうやって逃げ応せたのでしょう?
宇宙艇は自動操縦のため外から入力されたコース以外を通ることはできません。被害者が乗り込んでから警察が宇宙艇を回収するまで 常にカメラがその姿を追い、その間宇宙艇に近づいたものは誰一人としていませんでした。
一人乗りであるため他の人間が隠れて宇宙挺に乗り込む余地はなく、もし被害者の後ろに乗っていたとしてもその姿はカメラによって撮られていたことでしょう。
むろん分解調査した結果抜け穴等の仕掛けはどこにも見られませんでした。
この状況を覆し被害者を殺害する方法は一つしかありません」
全宇宙が彼の次の一言に息を呑んだ。
そして彼は神託を告げた。
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