第7話首切り令嬢

「皆さんを――解雇します」


その瞬間、ホールの空気が凍りついた。

ざわめきも、息づかいも、すべてが止まる。

使用人たちは一斉にこちらを見つめ、目を見開いたまま動けなくなっていた。


従業員たちの顔は、驚きと悲哀でこちらを見ている

(ごめんなさい……)

心の中でそう呟きながらも、俺は言葉を続ける。


「正直に言います。この屋敷は今、破産寸前です。皆さんを雇い続ける余裕は、もうありません」


静寂の中で、自分の声だけがやけに響く。

「本当に……すみません」

深々と頭を下げた。


「や、やめてくださいお嬢様! そんなことは!」

慌てて前に出ようとするメイドを、俺は手で制した。


「いえ、これは私の責任です」

顔を上げ、真っすぐに皆を見渡す。

「ですから、皆さんの再就職には、全力でサポートします」


ざわめきが起きる。

「マフィンさんの知り合いの商会の方にお願いして、何人かは雇ってもらえることになりました」

「使われていなかったサーカス場を、学校施設に建て直す計画も進んでいます。そこでも先生を募集しているそうです」


「もし希望の仕事があれば、私に言ってください。できる限り支援します」


一瞬の沈黙のあと――

「……まぁ、金がないなら仕方ないよね」

一人の男が、苦笑まじりにそう呟いた。


「この仕事、楽しかったよ。また別の場所でも頑張るさ」

「そうそう! 私、前からパン屋になりたかったの!」

「俺は牧場で働いてみたい」


次々と希望の声が上がる。

誰も責める者はいなかった。

むしろ皆、少し笑っていた。


「お嬢様、今までありがとうございました」

そう言って、一斉に深々と頭を下げる。


罵声を浴びる覚悟でここに立ったのに――

代わりに返ってきたのは感謝の言葉だった。


胸の奥が熱くなる。

「……みんな、私からもありがとう。今まで、本当にお疲れさまでした」


堪えきれず、一筋の涙が頬を伝う。

慌てて袖で拭い、努めて笑顔を作った。


「皆様の門出を祝し、ささやかですが餞別を用意いたしました。どうか受け取ってください。そして――新しい道でのご活躍を、心よりお祈りしています」


「皆様の門出を祝し、ささやかですが、餞別を用意いたしました。どうか受け取ってください。そして、新しい道でのご活躍を心よりお祈りしています」


その夜、屋敷では最後の晩餐が開かれた。

ホールには、久しぶりに明るい笑い声が響いている。

涙混じりの笑い声――これが“別れの宴”なのだと思うと、胸が少し痛んだ。


隣には、前にも座ったあの小さなメイドがいた。

名前はプリン。つい先日、ようやく名前を覚えたばかりだ。


「リーグレット様……あの、お願いがあるんです」

申し訳なさそうにプリンが声を落とす。


「何かしら?」


「私を雇ってもらえないでしょうか! 本当に何でもします。給料はいりません、食事だけで十分です。馬車馬のように働きますから、どうか……お願いします!」


驚いたが、すぐに笑みがこぼれた。


「それは嬉しい申し出ね。実は、屋敷を維持するために最低限の人員は残すつもりなの。……なら、ぜひお願いしようかしら?」


プリンはぱっと顔を輝かせ、勢いよく頭を下げた。

(かわいい子だな)と思わず心の中で呟く。



数日後。


全員が新しい職を見つけ、屋敷は急に静かになった。

今残っているのは――


庭師兼鍛冶屋のカヌレ。

メイドのプリン。

あのとき泣いてしまった心優しいメイド、ブラウニー。

料理長のドーナツ。

そして、いつも冷静沈着なマフィン。


マフィンは、従業員たちの再就職先の手配をすべて一人でやってくれた。

彼女がいなければ、今頃この屋敷は破産していただろう。


いくら金を積まれても、絶対に手放したくない人材だ。

――もっとも、本人は平然とこう言う。


「私はお嬢様のためなら、死んでも構いません」


(……少し愛が重すぎないか)

心の中で苦笑しながら、俺は紅茶をひと口啜った。



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