第4話50億の返済目処

そろばんを弾く音で目を覚ます。

 目をこすると、そこにはマフィンが座っていた。脇には大量の書類が積まれている。


「おはよう、マフィン」

 声をかけると、彼ははっと顔を上げた。

「おはようございます、リーグレット様。……もしかして、起こしてしまいましたか?」

「いや、そんなことないよ。……ていうか、もしかして一晩中やってたの?」

「はい。1年分だけだと資料が足りないと思いまして、とりあえず3年分の計算を行っておりました」


 ――なんだ、こいつ超人か?

「そんなことをしてくれたのか……ありがとう」

「いえいえ。お嬢様のためなら、たとえ火の中だろうと飛び込む覚悟でおりますから。こんなのは朝飯前ですよ」


 本当に朝飯前に終わらせるやつがあるか、

 だが、これはすごく有益な情報だ。

 四年分もあれば、大体の出費と収入の傾向が割り出せる。

 そうすれば、これからの対処法もおのずと見えてくる。


 ――ぐぅ。

 考えていると、腹の虫が鳴いた。


「お嬢様、朝食にしましょうか」

「うん、そうするよ」


 恥ずかしい気持ちを抑えながら食堂に向かう。

 今日の朝食は、昨日のレタスのような野菜の上に、生ハムのようなものが花のように飾られていた。

 スープは深い赤色をしている。


 一口飲むと、濃厚な旨味とほどよい酸味が舌に広がった。――これもおいしい。

 昨日のメイドの子に声をかける。

「今日もおいしかったよ。シェフに伝えておいて」

 すると彼女はうれしそうに微笑んだ。

「はい、わかりました。リーグレット様」


 どうやら、ようやく恐れを解いてくれたようだ。



マフィンと一緒に計算を進めてわかってきたことがある

 出費額は毎年赤字だ。そして借金は50億円。


 前世なら、この金額を見ただけで倒れていただろう。

 だが、計算しているうちに大きな数字には慣れてきて、少し麻痺してしまった。

 ――それでも、とんでもない数字だ。


 しかし気になる点がある。

 4年分集計したところ、3年前に出費が格段に増えているのだ。

 「これはどういうことですか?

 マフィンは言い淀み、ゆっくりと口を開いた。

 「3年前は、リーグレット様のご両親が航海中に亡くなられた年です」


 思わず息を止めた。

 そんなことがあったのか……。

 確かに両親の気配はなかったが、どこかに行っているのだと思っていた。


 リーグレットは両親を失い、財産と領地が一気に舞い込んだ。

 そして、それをとてつもない出費に使ってしまった――。

 ……自分に怒りが湧くが、前世では、自分は、父親の借金を必死で返していたのに、それに比べて、こいつは、だが怒っても仕方がない。

 今重要なのは、この50億の返済目処をどう立てるかだ。


 屋敷の収入は、領民からの税金と旅人の通行料、行商人の関税による。

 大体、税金が70%、関税が25%、通行料が5%程度。

 全部で毎年10億円程度の収入になるが、王様への献上金で1億円取られるので、手元には9億円。


 毎年利子が3億円、年間浪費金額が7億円……

 ――毎年1億円ずつマイナス。元本は減らず、むしろ増えている状況だ。


 まずは、年間7億円の出費を減らさなければならない。



 マフィンが7億円の出費リストを作ってくれた。

 不要な出費に×をつけ、必要な出費には○をつければよい。


年間出費リスト

• 観客がいないサーカス:10,000,000 ×

• 年間の衣装代:10,000,000 − 99%

• 年間の食費:5,000,000 − 90%

• 謎のお茶会:5,000,000 ×

• 謎の占い:1,000,000 ×

• 領地の道路整備:1,000,000 ○

• 用水路の整備:500,000 ○

• …etc.


 次々と容赦なく×をつけていく。

 だが、一つの項目に目が止まった。

 ――勇者祭、10,000,000。


 かなりの出費だが、なぜか気になる。

 マフィンに聞くと、驚いた様子で言う。

 「勇者祭をお忘れになったのですか?」

 「いや、ちょっとど忘れして……」

 「そうですね、最近は行かれてないですもんね。勇者祭とは、この領地で過去に生まれた勇者様を称える祭りです。地域住民は1年に1度のこの祭りのために毎日を頑張っております」

 「そうなのか、ありがとう。地域住民の支えになっているなら、これはアリだろう」


 勇者祭 ○


 こうして年間の出費7億円を整理し終えた。

 残ったのは2億円。


 ――なんと、これだけの作業で65%も出費をカットできたのだ。

 カットした分を元本返済に回せば、借金返済への道が開ける。

 やっと、希望の光が差し込んできたような気がした。



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      次回もリーグレットの節約奮闘をお楽しみに!


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