飯テロスイッチ ―異世界更地グルメ旅―

五平

第1章:新生活と予感 ~あんたと一緒なら、毎日が発見や~

第1話 川魚と、うちの新生活

「あー……お腹空いたなぁ。

なんか、もっと美味しいもの、

ないかなぁ」


セレスは、山小屋の古びた

木製テーブルに頬杖をつき、

遠い目をしていた。

ここでの生活も、もうどれくらい

になるだろう。アシュと二人きりの、

質素だけど穏やかな日々。

でも、たまには贅沢もしたいと

思うのは、人間の性というものだ。

特にセレスは、美味しいものへの

執着が人一倍強かった。


テーブルの片隅には、今朝アシュが

採ってきた野草とキノコが並んでいる。

もちろん、これも貴重な食料だけど、

何日も続くとさすがに飽きがくるという

ものだ。


「アシュ〜、なんか、もっとこう、

ガツンとくるやつ! 肉とか、

魚とかさぁ!」


セレスがぼやくと、足元で丸く

なっていた巨大な竜が、ごろんと

身を起こした。アシュは、セレスの

たった一人の同居人であり、相棒であり、

そして時々、とんでもないものを

連れてくる竜だ。大きな瞳をぱちくりさせ、

セレスの顔を見上げる。

まるで「何かご用?」とでも言いたげな

仕草に、セレスは思わず笑ってしまった。


「ご用っていうかさ、ほら、

お腹空いたなって。アシュも、

お魚とか好きでしょ? あの、

ぴちぴち跳ねるやつ!」


セレスが身振り手振りで説明すると、

アシュは「くぅん」と小さな鳴き声を上げた。

言葉は通じなくても、セレスの気持ちは

ちゃんと伝わっているようだ。

アシュはそのまま立ち上がると、

山小屋の小さな出入り口から

外へと出て行った。


「お、おーい! 気をつけn……って、

もう行っちゃったし」


セレスが言い終わる前に、アシュの

巨大な体はあっという間に視界から

消えていた。相変わらずのマイペースぶりに、

セレスは苦笑するしかなかった。

アシュはこうして、セレスのちょっとした

ぼやきにもすぐ反応して、何かを見つけてくる。

その度に、予期せぬお土産を持って帰ってくるのだ。


どれくらい経っただろうか。

セレスが野草の仕分けを終え、

そろそろ火を起こそうかと考え始めた頃、

遠くからゴゴゴゴ……という鈍い音が

響いてきた。


「ん? なんの音だろ?」


まさか地震? と思っていると、

すぐにアシュの巨大な影が山小屋の

入り口を覆った。


「アシュ、おかえりー! って、わぁ!」


アシュが抱えてきたものを見て、

セレスは思わず声を上げた。

アシュの爪には、見慣れない巨大な

川魚が何匹もぶら下がっている。

その魚は、銀色の鱗をきらめかせ、

まだかすかに跳ねている。そして、

その魚たちと一緒に、淡く青白い光を放つ

水草のようなものが絡まっていた。


アシュは嬉しそうに「くぅん!」と鼻を鳴らすと、

魚と水草をセレスの前にそっと置いた。

その無垢な瞳には、最高の獲物を

見つけてきたという自慢げな色が宿っている。


「これ……どこで採ってきたの?

こんな魚、見たことないなぁ。

水草も、光ってるし!」


セレスは目を輝かせながら、魚を

まじまじと眺めた。こんな大きな魚は、

今までこの辺りの川では見たことがない。

そして、水草も不思議な光を放っている。

しかし、セレスはそんなことよりも、

目の前の獲物に意識が集中していた。

これだけあれば、今夜は豪華な食事ができる!


アシュが再び「くぅん」と鳴いた後、

少し離れた場所にある川の方向を、

しっぽで指し示した。その方向には、

わずかに水しぶきが上がっているのが見えた。


「もしかして、アシュが獲ってきたの?」


セレスが聞くと、アシュは大きく頷いた。

そして、前足を器用に動かし、

何かを壊すようなジェスチャーをした。


「え? なに? なんか、壊しちゃったの?

アシュ、またやっちゃったのぉ?」


セレスは呆れたように笑った。

アシュは昔から、悪気はないのに、

うっかりとんでもないものを壊してしまう

癖があった。今回もきっと、魚を捕まえるのに

夢中になって、何か邪魔なものを壊してしまったのだろう。

しかし、セレスにとっては、

それもいつものアシュのおっちょこちょい

エピソードの一つに過ぎなかった。


「まあいっか! どうせアシュが壊したもの

なんて、すぐ直るでしょ!

それより、これ、どうやって食べようかなぁ!」


セレスは早速、魚の下処理に取り掛かった。

鱗は大きくて硬いが、アシュが

持ってきてくれたナイフを使えば、

意外と簡単に剥がれる。内臓を取り除き、

丁寧に水で洗う。光る水草も、

試しに少しちぎって舐めてみたが、

特に毒々しい味はしない。

むしろ、ほんのりとした塩味と、

清涼感のある香りがする。


「これ、もしかして、一緒に焼いたら

美味しいかも!」


セレスは閃いた。山小屋の横にある、

石で組まれたかまどに火を起こす。

パチパチと薪が爆ぜる音が、

静かな山中に響き渡る。

火が安定したところで、セレスは

魚に軽く塩を振ると、竹串に刺して

火にかざした。


じゅうじゅうと、魚から脂が滴り落ちる音がする。

香ばしい匂いがあたりに漂い始め、

セレスの胃袋を刺激した。

光る水草も、魚の隣でじっくりと炙る。

水草は熱でさらに青白い光を増し、

まるで宝石のように輝いている。


焼きあがった魚は、こんがりと

黄金色に輝き、食欲をそそる。

セレスは熱々の魚を慎重に取り皿に乗せ、

隣に光る水草を添えた。

アシュも、セレスの隣に座り込み、

目を輝かせながら魚を見つめている。


「じゃあ、いただきます!」


セレスは大きく一口、魚の身を頬張った。


「んんんーっ! なにこれ!

めっちゃ美味しい!」


香ばしい皮の下から、

ふっくらとした白い身が顔を出す。

口に入れると、とろけるような脂と、

上品な魚の旨味がじゅわっと広がる。

今まで食べたどんな川魚よりも、

新鮮で、濃厚な味わいだった。

そして、光る水草を魚と一緒に食べると、

さっぱりとした塩味と独特の香りが加わり、

さらに魚の旨味を引き立てる。


「アシュ! これ、すっごく美味しいよ!

アシュのおかげだね!」


セレスが満面の笑みで言うと、

アシュは嬉しそうにしっぽをブンブンと振った。

セレスの笑顔を見ているだけで、アシュは

満足なのだ。二人は無言で、しかし幸せそうに、

獲れたての魚と光る水草を平らげた。

あっという間に骨だけになった魚を見て、

セレスは心底満足そうに息をついた。


「なんか元気出た気がするなぁ……

気のせいだろけど」


満腹になったセレスは、そう呟いて、

ふかふかの土の上に大の字になった。

山小屋の周りには、夜風が心地よく吹き抜けていく。

満点の星空が、二人を見守っていた。


---


🍳 次回の飯テロスイッチ! 「……西部の水脈で、魔力の微細な変動を確認。原因はまだ分からぬ…」

次回 第2話 光るキノコと、うっかりの落とし物

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