第3話 カレーパーティーと不動の疑念

「美琴様、お肉は入れましたか」

「入っていますよ」

「じゃがいもににんじんにカレールーも忘れてはいけませんわよ」

「ありがとうございます。ムースさんが教えてくれますから買い忘れをふせげます」

「どういたしましてですわ」


ムースと美琴はスーパーの食品売り場でカレーの材料を買いにきた。

スーパーに入った直後からすぐにムースは美琴の腕に密着している。

身長差があるので事情を知らない人にとっては姉妹に見えるかもしれない。

買い物かごに材料を入れて会計を済ませると袋ふたつ分になったので、ひとつずつ持つことにして外へ出た。

築数十年のアパートに帰宅して、さっそくカレーを作り始める。

不動の分は大量の唐辛子を投入して思い切り辛くしており、真っ赤な見た目からしてどれほどの辛さなのか想像できた。

美琴とムースの分は普通の甘口のルーを使って作った。

時間になって不動がアパートの扉を潜って現れた。

背中まで伸ばした茶髪に猛禽類のように鋭い眼力。屈強な上半身。

上半身の裸も迷彩色のズボンもいつもと変わらない。

ムースは内心で服を着れば威圧感が減るのにと思ったが言わなかった。

ぴったりのタイミングで盛り付け、いただきますと食べ始めるが会話がない。

美琴も不動も無言で租借するだけで場が盛り上がらない

せっかくのカレーパーティーなのにもったいないと自分から話題を提供する。


「美琴様はスター流に来る前はどのような生活をしていましたの?」


何気ない問いかけに食いついたのは不動だった。眼力を更に鋭くして。


「俺も気になっていた。話せ」

「そうですねえ……普通だったと思います。小学校と中学校は男の子と共学だったんですが、やっぱり新幹線と同じぐらい速く走ったり車を持ち上げちゃう女の子って普通じゃないみたいで、浮いちゃっていました」

「ちょっと待て。お前はガキの頃から今の力に目覚めていたというのか」

「はい」


あっさりと言った美琴に不動はカレーを食べる手を止めた。


「妙だが、まあいい。話を続けろ」

「それから女子高に行って卒業して、就活したんですけれど失敗ばかりで……そしたらスターさんに出会って今に至ります」

「スター様に出会えてよかったですわね。彼がいなければわたくしにも出会えていませんでしたもの」


喜々として頬を寄せてくるムースににこにこと微笑むムース。

平和な光景とは対照的に不動の眉間には深い皺が寄った。

不動は常に苦虫を嚙み潰した顔をしているのだが、彼の怪訝な顔を見て美琴が口を聞いた。


「どうかしましたか」

「やはり妙だと思ってな。念のために聞くが、今の話に嘘はないな」

「はい」

「だとすると……美琴、お前は自分のことをどう思う?」

「ちょっと力が強いだけの人間だと思っていました。今は超人ですけれど」


美琴の答えに不動は軽く息を吸い込んでから言った。


「俺やスター、星野、ジャドウ、カイザー、ラグは惑星エデンの出身だ。地球では神話として伝えられているが、ともかくエデン以外の星に行けば超人的な力を発揮できる。一方、俺たち以外のスター流のメンバーは全員が元人間だ。ロディもヨハネスもムースも」


美琴は頷いた。


「スター流で過酷な訓練を積んでスターから認められて初めて超人キャンディーを食べて能力を開花させることができる。翻って美琴、お前はどうだ。スターに出会う前から超人的な力を有していた。妙だとは思わないか」

「どういう意味です?」


コテンと首を傾げる美琴に不動は言った。


「お前の出自には何か秘密があるかもしれんということだ」


不動は以前から美琴の存在に疑問を抱いていたが、彼女の話を聞いて謎が深まった。

他のメンバーとは異なり壮絶な過去があるわけでもなくごく普通に青春をおくっていたこともそうだが、何より幼少期から超人的な力に目覚めていたというのが気になった。

カレーを食べながら不動はさらに話を進めていく。


「美琴。流派の皆はお前のことを天才と口にするが、俺にはそうは思えん」

「まあ! 美琴様の才能を疑うんですの⁉」


ムースが食ってかかるが美琴がなだめ、彼女にカレーのおかわりをよそう。


「お前は俺と出会った時から天才的な格闘センスを持っていた。今も変わらず、成長し続けていると表現しても過言ではない。現時点でも俺を超えているだろうからな」

「嬉しいお言葉ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げるが不動の言葉は終わらない。


「だが、俺からすれば成長速度が異常に見える。俺は不動倶梨伽羅落としの原型をスターに教わり習得し自分の技にするまで数年かかった。それほど難易度が高い」

「単にあなたが習うのが下手なだけではないのですの?」

「黙れムース」


ギロリとムースを一瞥してから。


「だがお前は数日で俺の技をモノにし改良までやってのけた。この才能は異常だ。

加えて戦い方そのものにも疑念を抱いている。美琴、お前は戦闘中、頭を使っているか?」

「実は……言いにくいことなんですが、いつも身体が勝手に動くんです」

「身体が、勝手に……⁉」


ムースは美琴の言葉を反復した。確かに彼の指摘通り、美琴は相手の動きに反応して技を繰り出している節があった。普段の温厚な様子と戦闘時の動きがまるで結びつかないのだ。


「戦いが始まると自分でも知らない技をどんどん繰り出して、気づいたら勝っています」

「凄すぎますわね」


話を聞きながらムースは青ざめていた。美琴の実力は別次元の領域に到達している。


「負けたことはあるのか?」

「組み手で一度だけあります」

「誰に負けたっ」

「教えてください美琴様!」


不動とムースの凄まじい食いつきに若干怯みながらも美琴はその人物の名を口にした。


「川村猫衛門君です」




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