第32話 異世界転移

 速達の手紙のようなものが届いた。


 受け取った手紙をすぐに開いてリアンさんが読み始めた。


「ランドたちが毒薬の出どころを突き止めたようだね」


 リアンさんの表情が曇った。


「……どうしました?」


 手に力が入って紙が曲がっている。


「権力闘争か……」


 つぶやいたリアンさんの言葉の意味を考えた瞬間、頭の中に電撃が走ったような痛みを感じた。


 親戚からの嫌がらせ、跡継ぎを辞退しろという脅迫文、事故と見せかけて上から落ちてくる植木鉢。


 継ぐなというなら継ぐ気はなかった。そもそも僕の手に余るものだ。


 だが、それも許されなかった。僕に継いでもらわなければ都合の悪い人たちがいる。


「――スミ君」


 だから、僕は、僕のせいで誰かが争わないよう、波風を立てないよう、言われるがままに振舞った。


「カスミ君!」


 思い出した。学校へ行く車に乗ってドアが閉められた瞬間。車が爆発したんだ。


 だとすると、ここは死後の世界? それとも僕の頭が作り出した幻想?


「おい、カスミ君!」


 リアンさんに激しく揺さぶられ、頭ががくがくと揺れていた。


「この世界は、現実ですか?」


 いつの間にか倒れかけていた僕をリアンさんは支えてくれていた。


 リアンさんの目をまっすぐ見つめた。リアンさんもまっすぐに僕の目を見てこう言った。


「君が何を考えているか分からないが、私にとってはまぎれもない現実だ。それは保証しよう」


 ようやく力の入るようになった足で自重を支える。


「記憶が、戻りました」


「そうか」


 リアンさんは何も聞いてこなかった。


「僕は……こことは違う世界から来たようです」


「戻る方法は?」


 僕は首を振った。どうやって来たのか分からないのに帰り方が分かるわけがない。


「それでは、今、何をしたいかね?」


 僕のしたいこと……。


 そういえば、この世界に来てから、僕は何も選んでいない。与えられたものを拒まずに受け入れてきただけだ。


「僕は――」

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