大都市ギャラルディン 心を捧げた女
第25話 ヤバいイケメン
『とれたてのグランフルーツだよー!!おいしいよー!』
『屠りたての肉だよー!!とにかく新鮮だよー!!』
『マルスの直営店でーす!!新作のイヤリング取り扱ってまーす!!』
「ねえねえ!マルスの新作だって!ちょっと寄ってかない!?」
「はあ……。何言ってんだよスピカ。昨日死ぬほど金使ったろー?」
「でもマルスの新作だよ!?気になっちゃうでしょ!」
「知らねえよ。ブランドに興味ねえ。」
「あーあ、これだからダサ男は嫌なのよ。」
「何だと!?」
「ははは。スピカ、お前みてえなガキにマルスは早えよ。身の丈に合わねえもん着けても滑稽なだけだぜ。」
「カインは黙ってて!!」
俺たちは今、大都市ギャラルディンの中心地を訪れている。
久々に来たが、やっぱりいつ見ても壮観だ。
様々な店や屋台が軒を連ね、人々は活気に満ち溢れている。
果物の爽やかな匂いが鼻腔をくすぐったかと思えば、屋台から香ばしい匂いが届き、最終的に独特の香りが形成される。
浄界の経済を支えてきた都市なだけある華やかさを湛えたその街並みに、思わず気分が高揚してしまう。
少しくらい観光を楽しんでいきたいところだが、俺たちの目的はあくまで旅だ。
さっさと次の目的地に行くためにギャラルディンを横断する。それが俺たちのすべき事だろう。
まあ俺たちはギルド構成員だから、トラブルを見つけたら出来るだけ首を突っ込まなきゃならないところでもある。見て見ぬふりは出来ないからな。
出来るだけ穏便にここを抜けたいところだが……
「ぷっぷりぷー!ぷぷぷっぷぷ??ぷーぷーぷー!!!」
突然、奇っ怪な言語を操る謎の男が俺たちの前に飛び出してきた。
「ぷぷぷりぷー!?ぷりぷりぷり!?」
あー、見て見ぬ振りしてぇー。
だがそうはいかない、俺もギルドの一員。ギルドの名に泥を塗るわけにはいかないのだ。
立ち向かう覚悟を決めた俺は、人間の本能からか反射的にそらした目をこいつに戻した。
……ん?こいつ、イケメン過ぎないか?
吸い込まれるような碧い瞳にスッと通った鼻筋、シャープな顎のラインに眩しいほどの金髪。
まるで名のある芸術家の彫刻の如き品格を漂わせたその男は、直視できないほどの輝かしさを放ち続けている。
が、今の場合それはマイナスにしかならない。なぜなら、より気持ち悪いだけだからだ。
見るからにヤバい奴がヤバいことをしてるより、一見まともそうなイケメンがヤバいことをしてる方が100倍キモい。
「「「…………。」」」
女性陣は皆、この男のあまりの美しさに目を奪われている。……しっかりしろよ!
「みんな!目を覚ませ!!こいつはただの変質者なんだ!!顔面に気をとられるんじゃない!!」
「……はうあっ!わ、私は何を……。」
真っ先に目を覚ましたのはエマだ。
……人をあまり見た目で判断しない彼女をも魅了してしまうとは。恐るべき魔力の持ち主だ。
「二人とも!起きてくれ!!」
俺は残りの二人の肩を揺らしながら必死に呼びかける。
「……はっ!な、何?メルト?」
「……私ったら、何を?」
何とか二人もこっち側に救い出すことが出来た。
……何と言う拘束力だったんだ。実戦だったら3人とも死んでるぞ。
「おい、お前!!」
「ぷぷ?ぷりっぷぷりっぷぷりっぷ!!」
「お前!」
「ぷぷぷーぷ・ぷーぷぷ。」
男はカインの呼びかけを歯牙にもかけず、異常行動を続ける。
「お前っつってんだろ!!」
「ぷりっぷうううううう!!!!……ってあああっ!!」
男は俺たちの胸のバッジに気づいたとたん、目の色を変えながら尻餅をついた。
「あなた方はギルドの……!すみません!許してください!!僕は変質者じゃないんです!!」
「いいや、お前は変質者だ。逮捕する。」
俺の即答を聞いた男は、すぐに体勢を起こし地面に額を擦り付け始める。
「すみません!それだけは勘弁してください!!僕にも家庭があるんです!!」
あれが家庭を持つ男の行動なのか。
「お兄さん、そんなに謝るなら何であんなことしてたんですかー?やっぱり頭がおかしいからですかー?」
「そ、それはですね!実は……」
面倒くさいから早く牢屋にぶち込みたい気持ちもあるが、一応話だけは聞いといてやるか。
「実は、ちょっとうちの妻のことでストレスが溜まっていまして……。」
「妻ですかー?」
「はい。それで、ストレス発散をしたくなってしまったんです。」
この際、発散の方法が独特すぎることには目を瞑っておこう。その上で、奥さんとの問題なら奥さんと話し合って解決すべきだと俺は思う。
「家庭の問題は家庭で解決してくれよ。よその人に迷惑をかけるのは良くないだろ。」
「はい……。その通りだと思います。」
「分かったか?じゃ、次からはこんな事はしないように……」
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
「何だ?」
「すみません、すごく厚かましいお願いなのは承知なんですが、僕の悩みを聞いていただけないでしょうか?皆さんなら、いい解決法をお持ちかもしれませんから!」
「悩みだぁ~?そんなのてめえで勝手に解決しろよ。俺たちはそんな暇じゃねえんだよ。」
カインの言うとおりだ。俺たちの仕事はお悩み相談なんかじゃない。
少し気の毒だが、俺たちには一刻も早く成し遂げねばならないことがある。こんなところで時間を使っている暇はないのだ。
そんなことを考えていると、シャル姉が意外なことを口にする。
「いいえ、悩みを聞いてあげましょう。」
「え!?な、何言ってるの!?もしかして、まだメロメロに……?」
「違うわよ。……よく考えてみなさい。もし私たちがこのまま彼を放って行ってしまったらどうなると思う?」
「ど、どうって?」
「きっと彼はまたストレスを溜め込んで、他の人にダル絡みしに行くわよ。」
「確かに……!」
そうかもしれない。
俺たちで彼の悩みを成仏させなければ、彼の行き場のない気持ちはまた暴走してしまう。
そもそも、一人で解決できる悩みならとっくに解決しているはずだもんな。
……将来の被害者を無くすためにも、ここは俺たちが一肌脱ぐしかないか。
「聞くよ、あんたの悩み。」
「いいんですか!?」
「うん。どこで話す?」
「ご飯でもご馳走させていただきながら話したいんですが、まだ中途半端な時間ですね……。一旦僕の家に来ていただけませんか?ここから近いんで、そこまで歩かせません。」
……ここから近いだって?
この辺は都市のど真ん中。ここらの地価はかなりのものだろう。
風貌を見るに、彼はまだ20代そこらっぽい。若いのにすごいお金持ちなんだな。
「分かった。案内を頼むよ。」
***
「ここが僕の家です。」
そう言って彼が手を差し出した先には、周りの建物とは比べ物にならないほどの大きさを誇る屋敷が佇んでいた。
「す、すごい……。」
「おっきいですねー!!」
みんなその大迫力に圧倒されている。
招かれた側のはずなのに、入るのを恐れ多く感じてしまう。……若くしてこれほどの豪邸を持つ彼は一体何者なんだ。
「さあ、どうぞどうぞ。」
「お邪魔します。」
重厚な玄関扉を潜り抜け、俺たちは長い廊下を促されるままに歩いていく。
「こちらがリビングです。こちらでしばらく時間を潰しましょう。」
「おう。」
「シルヴィア、帰ったよ。……あと今日は、お客さんを呼んでいるんだ。」
そう言いながら彼はドアを開けた。
「ようこそおいでくださいました。」
生気のない声で俺たちを出迎えたのは、仮面のような表情をした一人の美しい女性だった。
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