<Chapter 4:読了>

Section_4_1a「奏ちゃん、最近なんかキラキラしてない?」

## 1


告白から二週間が過ぎて、私たちの関係は——ゆっくりと、でも確実に変わっていた。


朝の挨拶が、前より自然になった。


図書委員の作業中に、他愛もない会話を交わすようになった。


そして、放課後に少しだけ一緒に帰ることも増えた。


でも、まだ恋人らしいことは何もしていない。


手を繋いだりとか、そういうのは——まだ恥ずかしくて。


「奏ちゃん、最近なんかキラキラしてない?」


昼休み、お弁当を食べながら彩乃が言った。


「キラキラ?」


「そう。なんか、前より明るいっていうか——輝いてるっていうか」


輝いてる。


確かに、毎日が前より楽しく感じられる。


朝起きるのも、学校に行くのも——


全部が、以前より特別な意味を持っているような気がする。


「そうかな?」


「そうよ。絶対何かいいことあったでしょ」


彩乃の勘は、いつも鋭い。


でも、まだ誰にも話していない。


航との関係は、もう少し二人だけの秘密にしておきたかった。


「まあ、色々あったかも」


「色々って?」


「いつか話すよ」


「えー、気になる」


彩乃が不満そうに唇を尖らせる。


でも、すぐに笑顔になった。


「まあいっか。奏ちゃんが幸せそうなら、それでいい」


幸せそう。


そうかもしれない。確かに、今の私は幸せだ。


## 2


その日の放課後、私は航と一緒に学校を出た。


「今日は、どこまで一緒に帰りますか?」


航が聞いてくる。


いつもは途中で別れるのだけれど——


今日は、もう少し一緒にいたい気分だった。


「女鳥羽川のところまで」


「女鳥羽川……それだと、けっこう遠回りになりませんか?」


「大丈夫。今日は時間があるから」


実際には、それほど時間があるわけでもない。


でも、航と歩いている時間は——


どんなに長くても短く感じてしまう。


「そうですか。僕も、もう少し一緒にいたいと思っていました」


もう少し一緒にいたい。


その言葉に、胸がほんわりと温かくなる。


私だけじゃなく、航も同じ気持ちでいてくれるんだ。


学校の坂道を下りながら、私たちはゆっくりと歩いた。


初夏の頃には青々としていた葉っぱも、今は黄色く色づき始めている。


季節が、少しずつ変わっているんだ。


そして、私たちの関係も——同じように、少しずつ変わっている。


## 3


「綾瀬さん」


航が急に立ち止まった。


「どうしたんですか?」


「実は……お話ししたいことがあるんです」


お話ししたいこと。


航の表情が、少し曇っている。


何だろう。嫌な予感がした。


「何ですか?」


「ここだと人通りが多いので……」


航が周りを見回す。


確かに、学校からの帰り道だから——


他の生徒たちもたくさん歩いている。


「川のほとりのベンチで話しませんか?」


「はい」


私たちは、女鳥羽川沿いの遊歩道に向かった。


季節の変わり目だからか、風が少し冷たい。


私は無意識に、カーディガンの前を合わせた。


「寒いですか?」


航が気遣ってくれる。


「少しだけ」


「すみません、長話になりそうで……」


長話。


やっぱり、大切な話なんだ。


そして、きっと——あまり嬉しくない話なのかもしれない。


川のほとりのベンチに座ると、水の流れる音が聞こえてきた。


穏やかで、優しい音。


でも、私の心は——どんどん不安になっていく。


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