25怖目 『指人形』

『指人形』


 ホラーマニアの私は、その界隈で有名な呪物コレクター・S氏と、彼の自宅で会談することになった。


 さすがと言うべきか、S氏の家には、いわゆる“いわくつき”と呼ばれる品々が所狭しと飾られていた。


 S氏は呪物の中でも、特に人形を中心に蒐集しているらしく、日本人形やこけし、海外のアンティークドール、かつて儀式でシャーマンが用いたという異形の人形まで、部屋中が人形で埋め尽くされていた。


 しばらくの間、S氏のコレクションにまつわる話を聞かせてもらった。


 髪が伸び続ける人形。持ち主の家が次々と火事に遭うが、決して焼けることのない人形。死んだ胎児の骨が埋め込まれている人形──


 話に夢中になっているうちに、すっかり時間を忘れてしまい、気付けば外はもう日が暮れていた。


 帰る前に、私はふと、気になっていたことを尋ねた。


 「あなたが持っている物の中で、もっとも恐ろしい呪いの品は、どれですか?」


 S氏はにこりと笑い、席を立つと、奥の部屋へと消えていった。


 そしてほどなくして、小さな箱を手に戻ってきた。


 S氏は私の正面に座り直すと、その箱を開けて中から何かを取り出した。


 どれほどおぞましいものが出てくるのかと身構えた私は、目にした品に思わず拍子抜けした。


 それは、スーパーやコンビニでも手に入る、お菓子に付いてくるプラスチック製の“指人形”だった。


 誰もが知っている、人気キャラクターのものだ。


 「……これの、どこが恐ろしいんですか?」


 思わずそう尋ねると、S氏はまた、嬉しそうな笑みを浮かべた。


 「まあ、ひとまず指に付けてみてください。あ、利き手じゃない方の指がいいですよ」


 言われるまま、私はその指人形を左手の人差し指に被せてみた。


 ……何も起こらない。


 指を動かしてみても、何の変化もない。ただの人形にしか見えなかった。


 不思議に思ってS氏の顔を見ると、彼はニヤリと笑いながら、こう言った。


 「それね、一度付けると絶対に外れないんですよ。で、仕方なくそのまま生活することになる。でも、そのうち鬱陶しくなってきて──みんな、指を切り落とすんです」


 そう言うとS氏は、自分の左手を私の前に差し出した。


 小指の第一関節が、綺麗に切断されていた。

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