バイオハザード Fの起源 第1話 ホークアイズ(鷹の目)T
@masamasa0930
第2話 第2話 BSAA 東欧の闇:Fウイルスの胎動
遡ること半月前、東欧某国。
鬱蒼とした森林地帯を抜けた先に、朽ち果てた古い修道院があった。
冷たい霧が立ち込め、不気味な静寂が辺りを支配している。
数日前、この場所で大規模なB.O.W.(生物兵器)による襲撃事件が発生し、現地調査に当たっていたBSAA(バイオテロ対策部隊)の部隊が壊滅状態に陥った。
状況を重く見たBSAA本部は、精鋭チームの投入を決定。その中に、バイオテロの最前線を戦い続けてきた男の姿があった。
クリス·レッドフィールド
刈り上げた頭に精悍で整った顔立ち。
鋼のような筋肉をまとった豪華な体をフルアーマーの中に隠している。
「クリス、この修道院が奴らの新たな拠点だという確証は?」
クリス・レッドフィールドの隣を歩く、チームのベテラン隊員が声を潜めて尋ねた。
彼のヘルメットの暗視スコープが、闇の中でわずかに光る。
経験豊富なBSAA隊員で、クリスからの信頼も厚い。
「確証はない。だが、情報はここを指し示している。この辺り一帯で確認されたB.O.W.の痕跡と、過去の電波妨害のパターンが一致する」
クリスの声は低く、感情を押し殺した響きを持っていた。
彼の脳裏には、過去の戦友たちの顔がよぎる。
そして、この場所で、何かが蠢いている予感があった。
チームは慎重に修道院の内部へと侵入した。
中は荒れ果て、崩れた壁や散乱した瓦礫が無残な光景を作り出している。
冷たい風が吹き抜け、腐敗したような匂いが鼻を突いた。
「周囲警戒!何が出てきてもおかしくない」
クリスの指示が飛ぶ。
隊員たちは各自、銃を構え、周囲を警戒する。
その時、修道院の奥から、微かな電子音が聞こえてきた。
それは、レオンがホワイトハウスやペンタゴンで何度も確認したと連絡してきた、あの不快な電波妨害のノイズに酷似していた。
「やはりここか…!」
クリスは舌打ちし、音のする方へと足を踏み出した。
彼らがたどり着いたのは、修道院の地下に広がる隠された研究施設だった。
薄暗い通路には、無数のケーブルが這い、中央には巨大な培養槽が並んでいる。
その異様な光景に、BSAA隊員たちの間に緊張が走った。
培養槽の中には、おぞましい姿のB.O.W.が蠢いていた。
それらは、一般的なゾンビやリッカーとは異なり、まるで意識を持っているかのように、培養槽の壁を叩き、外の世界に出ようと藻掻いている。
「これは…G-ウイルス系の変異体か?いや、違う」
培養槽のディスプレイに目を凝らす。
表示されたデータは、彼らの常識を遥かに超えていた。B.O.W.の生体情報が、異常な高Fウイルス適合性を示していたのだ。
「まるで、無理やり適合させようとした失敗作のようだな」
クリスが呟いた。
その時、研究施設の奥から、金属音と、何かを叩きつけるような激しい音が響いてきた。
「何かを運び出しているのか?行くぞ!」
クリスは隊員たちに指示を出し、音のする方へと急いだ。
彼らが辿り着いたのは、施設の最深部だった。
そこには、大型の輸送機が停泊しており、複数の武装した兵士たちが、巨大なコンテナを積み込んでいる最中だった。
コンテナからは、微かな脈動と、B.O.W.の唸り声が聞こえてくる。
「BSAAだ!動きを止めろ!」
クリスが叫び、銃を構えた。
兵士たちは即座に反撃に出る。
激しい銃撃戦が始まった。
BSAAの精鋭チームは、圧倒的な火力と連携で兵士たちを制圧していく。
しかし、敵兵の中には、明らかに人間離れした動きをする者がいた。
彼らは、まるで皮膚の下に何かが蠢いているかのように、銃弾を受けても怯むことなく突進してくる。
「こいつら…ただの兵士じゃない!Fウイルスを投与されているのか!?」
。
彼らの動きは、ペンタゴンを襲ったB.O.W.、そして「極度の生命の危機」によって能力が活性化するという情報と符合している。
戦闘は激しさを増す。
クリスは、自らが率いるチームの犠牲を最小限に抑えつつ、敵の目標を特定しようと目を凝らす。
輸送機に積み込まれているコンテナの数が多い。
その中には、F因子を適合させた、まだ未完成の「製品」が多数含まれている可能性があった。
「くそっ、これ以上、奴らを逃がすわけにはいかない!」
クリスは、輸送機へと向かうコンテナの一つに目を向けた。
そのコンテナには、微かな生命反応が感じられた。
それは、B.O.W.とは違う、しかし人間とも異なる、奇妙な感覚だった。
まるで、何かが目覚めようとしているかのような…
彼は、今回の事件の背後にいる組織の、真の目的の一端を垣間見た気がした。
修道院の地下施設での戦闘は、数分後にはBSAAの勝利に終わった。
クリスとグレッグ、そして他の隊員たちは、敵兵を完全に制圧し、輸送機に積み込まれようとしていたコンテナを確保した。
「コンテナの中身を確認しろ!」
クリスの指示で、隊員が分厚い金属製のハッチをこじ開ける。
そこには、培養液に満たされたガラス製の容器が並んでいた。
中には、まるで人間の胎児のように小さく、しかし異様なほどに発達した、いくつもの生命体が蠢いている。
それらは、人間ともB.O.W.とも判別しがたい、異形の生命体だった。
「これは…F因子に適合した、まだ初期段階の個体か?」
グレッグが顔をしかめる。
その光景は、あまりにも悍ましかった。
「彼らは、F因子を組み込んだ生命体を、兵器として完成させようとしていたんだ」
クリスの声に、怒りが滲む。
だが、彼は感情に流されず、冷静に状況を分析した。
「これらのデータと、輸送機に残されたログを回収しろ。奴らの目的、そしてどこへこれを運び出そうとしていたのか、全てを突き止める」
輸送機から回収されたデータ端末は、厳重なプロテクトがかかっていたものの、BSAAの技術班によってすぐに解析された。
その結果は、クリスたちを驚愕させた。
そこには、Fウイルスを用いて「選ばれた人類」を創生するという、狂信的な思想が記されていた。
そして、その計画の中核に、とある研究機関と、それに属する人物の名が浮上した。
それは、ホークアイズの父親の記録に記されていた、あの「元部下」だった。
「やはり、ウェスカーの後を継ぐような、狂った科学者がいるのか…」
クリスは拳を握りしめた。
これまでのバイオテロとは一線を画す、人類の存在意義そのものを揺るがすような計画。
それは、F因子を「救済の力」へと方向転換しようとしたソニアの父親の遺志とは、真逆の道を進んでいた。
そして、ログには、輸送先の候補として、複数の場所がリストアップされていた。
その中には、アメリカ合衆国の地名も含まれていた。
さらに、暗号化されたデータの中に、特定の座標が発見された。それは、東南アジアの、とある孤島の座標を示していた。
「アメリカか…レオンとジェイク、それにFウイルス適合者であるホークアイがいる。奴らは、そちらにも牙を剥こうとしているのか。そして、この座標…」
クリスは、無線機を手に取った。
レオンに、この新たな脅威を伝える必要があった。
[newpage]
現在、ペンタゴンでは。
ジェイクは一時的に設けられた、ホワイトハウスのエージェント、シェリー・バーキンの執務室の前に立っていた。
厳重な警備の中、シェリーは休む間もなく任務に当たっている。
彼自身は、護衛という任務に内心では辟易していたが、シェリーの笑顔を見るたびに、その不満はどこかへ吹き飛んだ。
「ジェイク、ありがとう。あなたがいてくれて、本当に心強いわ」
執務室から出てきたシェリーが、ジェイクに笑顔を向けた。
その言葉に、ジェイクの心は温かくなる。
「別に。俺はただ仕事してるだけだぜ」
ぶっきらぼうに答えるジェイクだったが、その表情は少しだけ緩んでいた。
シェリーはジェイクの言葉に慣れているようで、気にする様子もなく、むしろ優しく微笑んだ。
「そうね。でも、本当に助かってるわ。ありがとう」
シェリーの言葉に、ジェイクは内心で大きく動揺した。
ソニアが「愛は世界を救う」と言っていたことを思い出す。
彼女の皮肉が、少しだけ現実味を帯びてきたような気がした。
だが、彼らの平和な時間は長くは続かなかった。
ホワイトハウスの緊急通信システムが、再び奇妙なノイズを感知したという報せが届いた。
それは、ペンタゴンを襲ったB.O.W.たちが発していたものと酷似していた。
「またか…!」
ジェイクは舌打ちした。
新たな戦いの悪い予感がする。
(バカ女のいるラボも、また狙われるのか…!)
ジェイクの脳裏に、ペンタゴンの医療ラボで入院しているソニアの姿がよぎる。
彼女のように自分もかつて、すべてのウイルスに抗体を持つ血液を狙われた。
Cウイルスを強化して毒性の強いウイルスを作ろうとしたネオアンブレラに、まさに吸血鬼どもに狙われたのだ。
ソニアは、当時の自分と全く同じ状況にいる。
(くそっ、また同じことの繰り返しじゃねぇか…!)
Fウイルスを利用しようとする組織に対し、ジェイクの心に強い憤りが込み上げてきた。
それは、相棒としての使命感だけではなかった。過去の経験からくる、根源的な怒り。
ソニアを守ることは、同じように利用され、歪められた命を狙う組織への明確な敵意表明でもあった。
レオンからの緊急通信が入ったのは、その直後のことだった。
「ジェイクぼうや、ホワイトハウスの状況はどうだ?ペンタゴンと同じ電波妨害か…くそっ」
レオンの声には、疲労の色が濃い。
彼は世界中のバイオテロの情報を追っていた。
「ああ、その通りだ。バカ女のいるラボも、また狙われるかもしれねぇ」
ジェイクは苛立ちを隠さずに答えた。
「ソニアの件は、やはりFウイルスの問題で間違いないだろう。そして、奴らは相当な確信を持って動いている。我々の情報源では追いきれない部分が多すぎる」
レオンは重い口調で言った。
彼の言葉は、事態が想像以上に根深いことを示唆していた。
「だが、諦めるわけにはいかない。この件には、BSAAも動いている。
クリス・レッドフィールドと彼のチームも、奴らの動きを追っていると聞いている。各地での任務を終え、新たな指令を受けている最中だ。彼らなら、この組織の尻尾を掴めるかもしれない」
レオンの口からクリスの名前が出た瞬間、ジェイクの目がわずかに光った。
伝説の英雄、クリス・レッドフィールド。
父親のウェスカーのことで、複雑な気持ちを抱いたこともあったが、彼の存在は、ジェイクにとっても希望の光だった。
「クリス・レッドフィールドか…。あの不死身のゴリラ野郎が本気を出せば、多少は役に立つだろうな」
ジェイクは相変わらずの口調で言ったが、その声には、確かに安堵の色が混じっていた。
「とにかく、シェリーの護衛を頼む。彼女が安全な状態か確認できるまで。そして、ソニアの身辺にも最大限の注意を払え。奴らは必ず、また動き出す」
レオンは通信を終えた。
ジェイクは通信端末を握りしめ、遠くペンタゴンの方角を見た。
ソニアの無表情な顔が脳裏に浮かぶ。
彼女がどれほどの真実を知ったのかは分からないが、きっと彼女もまた、この世界の理不尽に怒りを感じているだろう。
Fウイルスを巡る争いは、まだ始まったばかりだった。そして、この戦いの裏には、レオンの知る情報だけではない、深淵なる陰謀が渦巻いていることを、ジェイクは肌で感じ始めていた。
[newpage]
ソニアは白い天井を見上げていた。
消毒液の匂いが鼻をつく。
隣の機械が規則正しい電子音を刻んでいる。
右腕に鈍い痛みがあった。あの爆発で、骨折したのだ。
「目が覚めたか、ホークアイズ」
低い声が聞こえ、視線を向けると、クリス・レッドフィールドがベッドの傍らに立っていた。
「クリスか……レオンは?」
ソニアの声は掠れていた。
「レオンは今は別件で動いている。お前は少し安静にしておけ」
クリスはそう言ってラボから出て行った。
自分の顔を見に来ただけのようだ。
だが、クリスの表情がなぜか気になった。
その日の夜遅く。
ペンタゴンの医療ラボの一室。
「あーあ、暇だなぁ。ジェイクちゃんもレオンのオジサマも、全然相手してくれないしぃ」
彼女は独りごちていた。
ジェイクはシェリーの護衛任務に詰めており、レオンは今回の事件の黒幕を追うため、世界中を飛び回っている。
不意に、病室のドアが開いた。
音もなく、影のように現れたのは、黒いチャイナドレスを纏った東洋人の女性だった。
「こんばんは、お嬢ちゃん」
その声は、甘く、しかしどこか冷たい。
ソニアは、その声の主をじっと見つめ返した。
(んー、この女が…レオンのおっさんが忠告してきた女スパイか?…いかにもそんな感じでわかりやすいな)
ソニアは即座に警戒態勢に入る。
彼女はエイダという女スパイの噂を聞いていた。
レオン・S・ケネディが長年の腐れ縁を持つ、謎多き女。
彼女の出現は、常に厄介事を意味する。
それほど、エイダは、危険な存在でもあった。
「ソニア・ホークアイズ。貴方の『鷹の目』は、やはり素晴らしいわ」
エイダの声は甘く、しかしどこか冷たい響きを持っていた。
その声は、ソニアの心の奥底を揺さぶるような、不思議な魅力を秘めていた。
ソニアは無言でエイダを見つめた。彼女の「鷹の目」は、エイダの表情の微細な変化、瞳の奥に隠された感情を読み取ろうと試みている。
エイダはゆっくりとソニアに近づき、ベッドサイドに置かれた医療記録に視線を落とした。
彼女の指先が、ソニアの血液データが記載された部分をそっと撫でる。
「Fウイルスとの適合…そして、貴方の父親の研究。全ては繋がっているのよ」
エイダの言葉に、ソニアの心臓が大きく跳ねた。
父親の研究。彼女は、父がFウイルスについて深く関わっていたことは知っていたが、その詳細は闇に包まれていた。
ペンタゴンは、彼女にその真実を隠し続け、どんなの頼んでも教えてくれることはなかったのだ。
「何を言っているの?」
ソニアは感情を抑え、冷静を装って尋ねた。
喉の奥がカラカラに乾いていた。
ソニアは、その底知れぬ危険を孕んだ雰囲気に、素知らぬ顔を保ち続けた。
目的のためには手段を選ばない、とレオンから聞かされていたその存在が、今、目の前にいる。
「あなたに、興味深い情報を持ってきたわ。私のことは、A.W.とでも呼んでちょうだい。あなたが探している真実は、そのペンタゴンの中にある。ただし…それがあなたにとって、真に『求めていたもの』かどうかは保証できないわ」
「A.W.」のイニシャルを聞いた瞬間、ソニアの脳裏に、ペンタゴンの機密情報で目にした「幽霊」のファイルがよぎった。
(やはり…エイダ・ウォン。私に接触してくるとは、欲しいのは逆にFウイルスの情報、というところか…)
エイダの言葉には、含みがあった。
ソニアの出生の秘密、そしてFウイルスの力。
それらが、エイダの目的とどう繋がっているのか、情報不足のソニアにはまだ全てが繋がらなかった。
しかし、エイダが、ソニアを何らかの形で利用しようとしていることは、明らかだった。
(はっきりしないうちは、下手に動かない方がいいか…今は、この女のゲームに乗ってやろう…)
ただ…
(私を利用できるのなら、やってみろ。あのスケベオヤジなら利用できても、私はそう簡単にはいかないがな…)
ソニアは、無表情のまま、エイダの言葉にわずかに首を傾げた。
「そう。ご親切にどうも」
ソニアの短い返答に、エイダは意味深な笑みを浮かべた。
ソニアの無表情な瞳の奥に隠された意志を、彼女は読み取ろうとしているようだった。
「あら、良い返事ね。でも、そう簡単に言えるかしら?運命は、時に残酷よ」
ソニアは何も言わずに笑顔で返す。
「あなたの出生にはある種の『計画』が関わっている。まあ、知りたくなければ動き回らず、これから先もここでいい子にしていることね」
エイダは、それだけを告げると、再び影に溶け込むように姿を消した。
彼女の残した言葉が、ソニアの病室に、冷たい月の光の中で存在感を放っていた。
(A.W.……Asshole woman.(クソ女)?Airhead woman.(バカ女)まあなんでもいいわ。いずれ後悔させてやる、Abomination woman.(ゲス女)め)
エイダが何を企んでいるのかは分からない。
しかし、彼女の言葉が、ペンタゴンに何も知らされていない自身の秘密に繋がると直感した。
ソニアの瞳の奥に、強い意志の光が宿った。
彼女はエイダの仕掛けたゲームに乗ることはするが、決してその手のひらで踊らされるつもりはなかった。
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