見えない子

リトルディッパー

第1話 はじめての友達

 ひとりで食べるお弁当は、いつも味がわからない。食べ終わるとすぐに参考書を開く毎日、誰も話しかけてこない。話かける勇気もない。何のために生きているのか、世界はぼんやり薄暗い。


 そんな私に、高校へ進学して初めての友達ができた。名前を九条希奈子という。彼女は不思議とはじめから、積極的だった。

「あなたしかいない!」

意味不明だが、そう言って近づいてきた。嬉しくて、すぐ仲良くなった。


 そして、気づけば、希奈子とおしゃべりするために学校へ行くようになっていた。

彼女は、私にとって曇天から差し込む、ひとすじの光だ。


 そんなある日、ついに、彼女の家へお呼ばれした。はじめての友達の家ということで、私は舞い上がり、すべての景色が虹色に輝いて見えた。しかし、あんなことになるとは、


 「撫子、ここが私の家よ!」

「えっ?」

 家の門にいくつもお札が貼ってある。少し不安を感じながらも、希奈子に手を引かれ、強引に連れ込まれた。 さらに彼女の部屋へ行くと、部屋中ところ狭しとお札が貼ってある。


 やばい?、そう思ったが、何しろ、ずっとボッチだった私だ。通常の懐疑心を持ち合わせていない。まあ、大丈夫、大丈夫!


 そうとは言え、お札のことを聞かないのも不自然だ。私は恐る恐る聞いてみた。

「希奈子!、このたくさんのお札はどうしたの?」

彼女は素直に話してくれた。


「私、小さいころから霊感が強くて、よくない霊が集まって来ちゃうのよ、だから、こうして魔除けのお札が必要なの」


「へえ~、今は大丈夫なの」

「うん、だいぶ除霊がうまくなったからね」

「へえ、凄いわ、私も何かに取り憑かれたら、除霊してもらえるかしら」


「いや~、あなたには必要ないかも」

「え、それってどういうこと?」


「う~ん、なんと言っていいか」

「もしかして、凄く強い守護霊がいるとか?」

「う~ん、その逆っていうか」


そんなことを話していると、彼女の母親が帰ってきた。

わたしを見てびっくり、

「希奈子、何で友達なんか連れてきたの、あれほどダメだって言ったじゃない」

凄い剣幕で、びびってしまった。


「お母さん、よく見て、大丈夫だから」

彼女は私をじっとみた。

「うそ、こんな子がいるなんて、信じられない!」

私って何んなの? そんなに珍しい子なの?

「あの~いったいどういう事でしょう」


「いや~、大きな声を上げてごめんなさいね」

「あなたって、霊感ないでしょ」

「え、無いとは思いますが、そんなに珍しいことなんですか?」

「あ、ご挨拶が遅れまして、木梨撫子です」

「この子の母の塁です。よろしくね」


「ところで、多かれ少なかれ、霊感て必ずあるものよ、そして強い、弱いはあっても、守護霊がいるものなの、それがあなたには、まったく見当たらないわ」


「ないと、まずいんですか?」

「まあ、人間、第六感ていうやつがあるでしょ」

「なにか、危険を感じて近寄らないとか、何となく雨がふるような気がして、傘を持って出かけたら降って来たとか、テストで感が当たったとか」


 そう言えば無い。確かに、危険とかは通学以外どこへも行かないので遭遇しにくいが、テストはヤマが当たったことがない、だから必ず全範囲くまなく勉強する。


「そういえば、まったくありません」


「よくそれで生きてこれたわね」

「でも、あなたなたら、うちの周りをうろつく、変な霊にとり憑かれることもなさそう、安心したわ!」


「そうなんですか?」

「ええ、霊感の無い人は、霊から見えにくいようよ、ましてやあなたなら、さしずめ透明人間かしら」

そこまで言わなくても、でも本当なのだろうか、私は信じられなかった。


「ところで、希奈子、門の前に変なのいたげど、あなた何か連れて来た?」

「え、気付かなかった」そう言って窓から門の方を覗いた。

その瞬間、彼女はのけぞった。

「何あれ、凄くやばい」

「ええ、あれは、祟り神ね、私でも除霊は難しいわ」

私も門の方を見たが、何も見えない。


「だから裏口から入ったのよ」

「お母さまは除霊ができるんですか?」

「ええ、本業よ、代々受け継いでいるの」

「まあ、しばらく様子見しましょう。晩御飯食べて言ってね」

「はい、ありがとうございます」


食事をいただいて、家族のことや好きなことや、あれこれ話すと、それはもう時間を忘れるほど楽しかった。しかし…


「しまった、もうこんな時間だ」

私は、慌ててかばんを持った。

「ごめん、門限だ。破るとめちゃくちゃ怒られるの、帰るね!」

そう言って玄関に行き、靴を履いたところ、希奈子が何か言って追いかけてきた。


「待って、まだ門には・・・」

何か言ったようだったけど、

「ごめんね、また今度」

そう言って出てきてしまった。


私は全力で走って、駅まで行き、家に帰った。ぎりぎりセーフだった。そして希奈子に電話した。

「今日は急にごめんね、今着いた」

「びっくりしたわ、祟り神がいるのに止まらないんだもん」

そうだ、そのことを忘れていた。


「うちまで着いてきたりしてないわよね」

「大丈夫よ、まだここにいるわ」

「あなた、祟り神を素通りして行ったわよ、すごいわ!」

「そうなんだ、じゃあ学校で明日話そうね、今日のこと、詳しく教えて」

「うん、約束するは、じゃあ、また、明日」


次の日、昨日のことで聞きたいことがたくさんあり、希奈子が来るのを今か今かと待っていた。しかし来ない。


 心配になって、電話してみたが、つながらない。ラインを送っても既読にもやらない。どうしたのだろう。

 とうとう、その日はこなかった。


 次の日の朝、先生から衝撃の話しがあった。希奈子が火事で亡くなったというのだ。私は信じられなかった。一昨日、仲良く話したばかりだったのに。


 私はどうしても信じられず、帰りに希奈子の家によった。家は焼け焦げて、ほぼ跡形もない。

しかし、希奈子の母が立ち尽くしていた。

「あ、撫子ちゃん!」


 声をかけてきた。

「おばさん、本当に希奈子さんは、亡くなったんですか?」

「ええ、残念だけど」

「何があったのですか?」


「例の祟り神と戦ったのよ」

「え、何でそんな無理を?」

「あの祟り神、周りの霊やあやかしをどんどん取り込んで、家を囲んでしまったの」


「それは、あまりにも」

「そう、勝つのは難しいわ、でも、希奈子はどうしても学校へ行くって、それで勝負に出たの、私も全力を尽くしたわ!」

「その結果が、この様よ」

「そ、そんな、そもそも、どうして祟り神なんかに?」


「前から狙われていたのよ、希奈子の霊感は凄くてね、このまま成長すれば、歴代最高の除霊師になると言われていたの」

「その脅威を見越して、悪いあやかしが希奈子の魂の取り込みを狙っていたの」


「私のせいだ、私が約束なんてしなければ」

下を向くと、地面にぽたり、ぽたりと水滴が落ちてきた。雨?いや違う、


「いいえ、あなたのせいではないわ、結局勝負しなければ、家から出られなかったのだから」

 私は、悲しみと同時に、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。祟り神に復讐したいと。


「それで、希奈子の魂は、持っていかれていまったのですか?」

「いいえ、何とか守ったわ、体は死んでしまったけど、その辺の何かに憑依しているはず」

えっ、そんなことあるの? と思いながらも、

「希奈子~、希奈子~ と二人で呼んだ」


 まさかと思ったが、黒い猫が一匹ひょこんと顔を出し、こちらへ歩いてきた。

「あ、希奈子! もう、やっと見つかった!」

「そう、おばさんが当たり前のように話かけた」


「あのう、おばさん、本当に希奈子なの?」

「そっか、あなたにはわからないのよね、少しでも霊感があれば、感じることができるのにね」

残念ながら、まったくわからない。


「まあ? 本当に!」

「おばさん、どうしたのですか?」

「いや、あなたが心配だから、ついて行きたいって、希奈子がいうの」

おばさんは困った顔をしている。


しばらく考えた後

「私、希奈子を連れていきます」

「いいの?」

「はい、それより、おばさんこそ、いいのですか?」


「ええ、家がなくなってしまって、しばらくビジネスホテルに泊まるつもりだけど、猫は連れていけないし、私には希奈子がはっきり見えるから、友達の家に下宿しているとでも思えるわ!」


「それと、猫が希奈子であることは、内緒にしていた方がいいわ、漢字はふせ、猫として ”キナコ” とよんであげて」

「はい、わかりました」


 こうして、おばさんと連絡先を交換して、家に帰った。

「キナコ、あなたは本当に希奈子なの」

「にゃ~ん」

本当らしい。











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