フラれた悔しさをバネにダイエットに成功したら自分をフッたギャルに痩せたいと泣きつかれた話
霜山熾
プロローグ 全てを焼き尽くすと決めた日
プロローグ ①
「ごめん意味わかんないんだけど」
それは中学二年生の
生きてきて初めて出来た好きな相手で、そして相手は整髪剤で染め直した明るい髪色に規定よりずいぶん短めのスカート、谷間が見えそうなぐらいに開いたシャツの胸元と、一見してちょっとやんちゃそうな印象の女子だった。
いわゆるギャルと呼ばれる人種、しかしスクールカーストなどはあまり気にせず誰にでも優しく、よく笑いいつも楽しそうに接してくれて、あまり人と喋るのが得意ではない所謂コミュ障の緑に対しても屈託のない笑顔を見せてくれる……いわゆるオタクに優しいギャルというジャンルの女子だった。
そんな彼女が今、緑に対してゴミを見るような目線を向けている。
「あの……意味が分からないって……」
既に声が震えまくっている状態で必死に緑は言葉を絞り出す。
普通こういう告白のシーンでの回答は、お願いしますかごめんなさいだと思っていた。意味わかんないというのは聞いた事がない。
一周回ってこれが陽キャにとってのイエスなのかなとか考え始めたところで、心底面倒くさそうに彼女は答えた。
「あのさあ……えっと名前なんだっけ、オタクくんだっけ?」
「あ、鹿ヶ谷緑です僕の名前……」
そんな攻めた名前をつける親はいない。
「じゃあシカガヤ君、さっきアタシに言った台詞もう一回復唱してもらえる?」
「っ!」
この時、緑はその言葉をチャンスと受け取った。
きっとさっき緑が何と言ったのか聞き取れなかったのだ。意味わかんないんだけどという言葉は、文字通り本当に何と言っていたのか意味が分からなかったという意味で、もう一度きちんとした言葉で伝えて欲しいと彼女は言っているのだと緑は解釈した。
「分かりました……んっ! あーあー」
喉の通りを確かめ、精いっぱいに真剣な表情を作る。
その日は六月の初週、梅雨時期にしてはずいぶんと涼しく、抜けるような空の青と立体的に流れる雲が印象的な日の事だった。時刻は午後四時、場所は中学校の屋上、告白するには全てのシチュエーションが整っている。後は完璧な台詞を自分が噛まずに言うだけだ。
緑はブロードウェイの舞台に立っているぐらいの気持ちで、もう一度告白の言葉を口にした。
「あの時初めて会った時からずっと伝えたいと思っていました! これから先も、ずっと一緒にいてください!」
「馬鹿にしてんの?」
ブロードウェイ閉幕。
「い、いや馬鹿にしてるわけじゃ……」
「いやあのさぁ、自分で言ってて情けないと思わないわけ? そういう台詞」
「情けないって……どういう?」
「……こんなこと言いたくないし、アタシは別に人それぞれの個性だと思うけどさあ」
そう言って彼女は、緑のふっくらとした腹を指差した。
「キミがやるべきなのってまずは、アタシにずっと一緒にいてくれってお願いするよりもまずは痩せる事じゃない?」
「ッ⁉」
雷に打たれたような衝撃と共に、緑はその場に膝から崩れ落ちる。思考が止まり、目の前が真っ白になって逆に思考に余裕まで出てくる。「今以上に青天の霹靂って言葉が当てはまる瞬間ってこの先の人生ないだろうな」とか変な事を考えていた。
「……ホント、マジ時間の無駄。じゃあね」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「次おんなじこと言ってきたらマジぶっ飛ばすから」
そう言い残して一瞥もせず彼女はその場を後にしていった。
屋上の扉が閉まる重厚な音だけを残し、その場で緑はまだ動けずにいた。
「……え」
色々な事が一気に起こり過ぎて緑はまず何をすればいいのか分からずにいた。そんな時ポケットの中のスマホがメッセージアプリの通知を知らせる。
ゆっくりと画面を見ると、告白することを相談していた妹から一件のメッセージが表示された。
『おにい今日は晩御飯どうするん? 彼女できたからいきなり向こうの家泊るとか言ったら怒るで』
告白が成功していることが前提のその文章を見て、自然と涙が零れてきた。
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