第34話 闇
「勇気のある奴も好きだ」
倒れていたそばへ、しゃがみ込み、時間を止めた男はいった。口調はやや、くだけたものだった。
聞かされるマキノの意識の方は朦朧としていた。蝋の球とはいえ、頭部に直撃だった。脳が揺れたのはまちがいない。
「おまえはガキだ。だが、玩具の銃とはいえ、うちへ攻め込んで来た。わるい女に騙されたな、大人ならひっかからん女だ。わらえるよ、わらえる」そういって、本当に少し笑った。「玩具の銃とはいえ、うちへ戦争を仕掛けてきたんだ、けじめは必要だった、部下もみている、ひどいめにあって、痛い思いしてもらう必要があった。このゲームは、そのけじめだ」
そう話す時間を止めた男の近くに、部下の男が来た。拳銃を受け取り、さがってゆく。
「まあ、ノーマルエンドさ」
と、時間を止めた男はいった。それから続けた。
「結果がどうあれ、エンディングは決まっていた。ゲームを始める前からな、ノーマルエンドが。少年、お前に言っていなかったことがある。手打ちなんだ、手打ちは、もう成立していた」
手打ち、だと。
この男はいったい。
「もう帰れ。お前が助けようとした娘は、お前の祖父の事務所にいる」
ミズメがうちの事務所にいる。どういうことだ。
奴の発言意図はみえない。しかし、もうこの状況に幕を下ろそうとしている気配はわかった。
「二度と、この街で俺にたてつくな。二度と俺にかかわろうと思うな、忘れろ、思い出すな、誰にも話すな。そんなのは、やらなきゃいいだけのことだから、できるはずだ。眠って、夢の中でも、生涯今日の夢だけはみないようにしろ、べつのいい夢をみろ」
マキノの意識はまだ、はっきりとしていない。それでも、時間を止めた男を見ていた。話も聞いていた。
「というわけだ。じゃあ、あとはお決まりのやつで、さようならだ」
と、時間を止めた男は言って、立ち上がる。部下を一瞥した。
「川へ放り込め」
こうしてマキノはふたりの部下に、上半身と下半身を持たれ、運ばれてゆく。時間を止めた男から、遠ざかってゆく。どんどん遠ざかり、小さくなり、やがて、時間を止めた男は闇へ戻るように、ふっ、と消えてみえなくなる。
マキノの方は運ばれながら、いくぶんか意識が明るくなっていったようだった。そして、じぶんの意志で、瞬きくらいできるようになった頃、外へ運び出され、川へ投げ込まれた。
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