第6話 個人的にお前に惚れた
「クソ! ワルツ死ぬな!」
「おい! もっと布を持ってこい!」
「何があった!?」
天那が入り口に向かうと、エントランスで胸部から血を流すワルツが手当てをされていた。
「天那さん、ワルツが出て行って刺されました……」
「誰にだ!?」
「ミーヤの母親です。夫に続いて娘も奪うのか、と」
「――クソが」
天那は扉近くの武器を手に取り、外へ出ようと扉を開けようとした所、老兵士に止められる。
「ボイルのジジィ……止めんな」
「天那、司令官はこの現状にどんな命令を下した?」
ボイルは片足を失って、ここに流されてきた老練の騎兵隊員だった。今も義足で松葉杖を突いている。
「あ? 知るかよ。ワルツの仇を討つ! ここで――」
「ここで、どうするつもりだ? 護るべき領民に手を挙げるのか?」
「仕掛けてきたのはあっちだろうが! 誰に手を出したのか分からせて――」
その瞬間、天那は後頭部を強く殴られた。的確な位置を的確な強さで殴打したボイルの技量に、意識がふらつき、扉から離れる様によろける。
「このバカを床下食糧庫に連れてけ」
「なに……ふざけた事を……」
本来なら有無を言わさずに意識を失うのだが、『強化兵士』である天那は生物としての耐久値も上がっている。
ボイルは松葉杖で天那の頭を殴りつけた。残った意識も刈り取られ倒れ込む。
「すみません、天那さん。みんなで決めてたんです。こうなった時には真っ先に天那さんとサンダーとエクエルを匿うって」
ジョイントと他数人の隊員が天那を抱える。
「くそ……お前ら……」
「天那、お前はサンダーとエクエルの敵だけを倒せ。そうすりゃ、もっとマシな奴の下に就ける」
「ジジィ……」
「クソみたいな場面を処理するのは男の仕事だ。女は奥で引っ込んでろ」
更に松葉杖で殴打され、今度こそ完全に意識を失った。
「その後、床下の隠し食糧庫で眼が覚めて外に出た時には仲間の死体だらけだったよ。基地もボロボロで食糧や金品は根こそぎ持っていかれてた」
領民の暴動。爆発した不満を受け止めた基地の仲間たちはまともに戦えず、押し寄せた倍近い領民達に殺された事は明白だった。
天那の隣ではサンダーとエクエルが眠っていた。睡眠薬を嗅がされたのか、天那が仲間の遺体を埋葬し終わっても起きなかった。
「サンダーとエクエルにはなんて説明したんだ?」
「魔物の襲撃にあったって言ったよ。ホントの事なんて話せねぇよ。あいつらには少しでも元の生活に戻る希望を持って欲しい」
「フッ」
「何笑ってやがる」
「いや、復讐に走らなかった事に感心しただけだ」
「……ジジィの遺言だ。蔑ろにする程、俺も堕ちちゃいねぇ。もっとも、サンダーとエクエルに手を出してきた時には容赦しないつもりだがな」
天那は大剣を床に突き立てる。
ハンニバルとしても基地がここまで荒れている理由が大体わかった。馬車の業者がこの基地からハンニバルを離そうとしたのは、この事を知られたく無かったからだろう。
「それが1年前か?」
「ああ。それからはどうしようもねぇ。俺はこの辺りじゃ顔が割れてるし、下手に移動すればすぐに見つかる」
「でも、魔物は狩ってただろ?」
「食料が半年で切れたんだよ。仕方ねぇだろ。遠出は出来ないから、周囲の魔物を狩りまくっちまって、一ヶ月前から二日に一食しか食えてねぇ」
「ハハハ。それじゃ『スカーボア』はご馳走だったろ?」
「…………ぶっ殺したが、毒にやられた。あんな奴だって知ってたら俺も手は出さなかった」
「それでも狩れるお前は普通にスゲーぜ? 『スカーボア』は生態系を歪める災害級の魔物だ。専用の装備と討伐部隊を組んでも勝算は五分な相手だよ」
「知るか。腹減ってたんだよ」
「ハハハ」
そこまで話した所で天那は立ち上がった。大剣を片手に少しよろけながら部屋を出て行こうとする。
「どこ行くんだ?」
「何か別の獲物を狩って来る。二人が起きた時に腹一杯食わせる」
「それなら俺が調達しておくからお前も寝とけ」
「お前の事を俺が信用すると思ってんのか?」
「だから好感度を稼ぎたいのさ。オレもここに居なきゃいけないからな」
「知るかよ」
「それに、個人的にお前に惚れた」
その言葉に天那はピタリと止まる。
「……何言ってんだ、お前……」
「いや、ホントにマジだぜ? このご時世、中々居ないんだ。誰かの為に武器を振る奴ってのはな。オレは中身重視なんだ。見た目はその次」
「……俺が『
「それもある。だが、オレが惚れたのは“六道天那”だ。『強化兵士』の天那じゃない。それにお前、結構可愛いしな」
その瞬間、ハンニバルに向かって大剣が飛んできた。顔の横を僅かに外れた剣は壁を貫通し、切っ先が窓の外に突き出る。
「ハハハ。壁を壊すなよ。雨風凌げる部屋は少ないんだろ?」
「口を閉じてろ……次に変な事を言ったら殺す」
そう言って天那は部屋を出て行こうとした時、何かに反応する。
「――――」
「やっぱり来たか」
ハンニバルは、ソレが来る事を事前に知っていたかのように立ち上がり大剣を抜こうとするが、全く動かない。
「お前……“この臭い”が何なのか知ってるのか?」
「ああ。多分、『スカーボア』相手に
壁に足をかけて、ハンニバルは持てる力の限り全体重をかけて大剣を引き抜こうと奮闘するが、息が上がるばかりで全く動かない。
「ゼェ……ゼェ……」
「…………」
見かねた天那は横から大剣の柄を掴むと、軽々と引き抜き肩に担ぐ。
「おい」
「ゼェ……ゼェ……なんだ?」
「ここを狙って誰か来たのか?」
「“誰か”、じゃなくて“何か”だな。多分、ここを縄張りにする為に来たんだろう。いい感じに壁に囲われてて村も近いしな」
「……ちっ」
「奴に近接で勝てる生物は居ない。そもそも、身体の構造自体が違う」
踵を返す天那にハンニバルは警告の意味を込めて告げる。
「俺もそこらの雑魚とは違う」
「だが、今は完調時の半分以下だろ?」
「…………」
「お前が死ぬとサンダーとエクエルはどうなる? よくわからないオレに託すのか?」
すると、天那は戻ってくるとハンニバルを見下ろしつつ起き上がらせる様に片腕で胸ぐらを掴み上げた。
そして、鋭い目つきで問う。
「お前は口だけの野郎か?」
「それが望みならそうする。だが、お前がそれ以上を望むなら――」
ハンニバルは不敵な視線で天那を見つめ返して告げる。
「オレが『
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