第21話:距離が育む感情
単独任務を終えた私は、
自身の成長を確認するため、
そして隼人との関係を見つめ直すため、
一時的に彼と物理的・精神的な距離を置くことになった。
御鏡家が用意した別の拠点へ。
海外の提携組織での研修。
地方の裏家業での貢献。
数ヶ月から一年程度。
この期間は、私が自らの足で立つための、
大切な時間だった。
隼人のいない生活が始まった。
訓練所で培った「独立の兆し」は、
彼の不在によって、確かなものになっていく。
だが、その一方で、
胸の奥に広がる、拭いきれない寂しさ。
不安が、時折、私を襲った。
日々の小さな出来事。
困難な任務に直面した時。
あるいは、ふとした瞬間に、
彼の言葉や表情、その大きな存在を思い出す。
街角で、彼に似た背中を見つけるたびに、
胸がざわついた。
それは単なる尊敬や感謝ではない。
胸を締め付けるような、
これまで感じたことのなかった感情。
恋。
そう、恋に似た、切ない感情だった。
彼を考えると、胸が苦しい。
会いたい、と、思ってしまう。
夜空を見上げる私の瞳に、
遠い故郷と、隼人の面影が映る。
(これが、恋、なのかな……?)
私の心は、激しく揺れていた。
ある任務で、私は情報伝達のミスを犯した。
それは、隼人の庇護があれば、
決して起きなかったような凡ミスだった。
その瞬間、彼の存在がいかに
私にとって大きかったかを痛感した。
同時に、彼の庇護が、
私の成長にとって足枷になる可能性を感じた。
組織の人間から、私に対する
「隼人さんの庇護があるから」という陰口が
耳に入ったこともあった。
それが、私の自立心を刺激した。
この距離を置くという決断は、
私が自分自身の力で、
もっと前に進むための、
私自身への命令だった。
隼人お兄ちゃんは、この間、
私に一度も連絡してこなかった。
それが、彼の私に対する信頼の証。
そして、彼自身もまた、
私の不在を感じていたことを、
私は後で知ることになる。
彩花雫との会話の中で、
私の話題が出るたびに、
彼の表情がふと硬くなる。
私の成長を報告する雫に、
「……そうか」とだけ答える彼の声に、
微かな喪失感が滲んでいると、雫は言った。
彼の中で、私に対する感情が、
保護欲から「一人の女性への愛情」へと
明確に変わっていく様子を、
私は感じ取った。
私のいない生活の中で、
彼の心の奥底に、私への渇望が募っていく。
(彼も、私と同じように、
この距離に苦しんでいるのかもしれない。)
冷却期間が終わり、
隼人と私が再会する日が訪れた。
待ち合わせの場所。
彼の姿を見つけた瞬間、
胸の奥で、何かが弾けた。
互いの成長と、深まった感情を確かめ合うように、
二人の視線が交錯する。
張り詰めたような、しかし温かい空気が、
私たち二人の間に流れた。
いずみの日記:
離れてみて初めて、
隼人さんがどれだけ私にとって大切だったか、
わかったの。
胸の奥が、ぎゅってなるんだ。
会えない時間が、
私をこんなにも強くしたんだね。
また、彼の隣で、彼の世界で生きていきたい。
次回予告:
会えた。やっと会えた。
この気持ち、どうすればいいんだろう。
次回、第22話「対等な関係」での結婚への決意」。
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