第8話:新しい私と学校生活
長かった訓練所での生活が終わり、
私は久しぶりに学校に戻った。
季節は変わり、小学校高学年になった
新しい制服に袖を通す。
真新しい生地の匂い、
スカートが揺れるたびに感じる軽さ。
なんだか、体がフワフワするみたい。
登校中の足取りは、前よりもずっと軽い。
アスファルトの冷たさも、
空から降る光も、
全てが新鮮に感じられた。
学校の門をくぐる時、
以前は胸を締め付けるようだった恐怖は、
もうどこにもなかった。
新しい自分への期待感が、
胸いっぱいに広がっていく。
教室に入ると、
クラスメイトたちの視線が一斉に集まった。
以前の私なら、きっと縮こまっていたはずだ。
臆病で、目立たなかった私とは見違えるほど、
今の私は自信に満ちていた。
周囲が戸惑いや好奇の視線を向けるのが分かる。
中には、どこか畏怖の念を
感じるような目で見ている子もいる。
いじめっ子たちの姿は、もうどこにもない。
そのことに、私は静かに安堵した。
隼人お兄ちゃんが、影で動いてくれたことを、
漠然と感じ取っていた。
授業中、何気ない瞬間に、
訓練所で培った護身術の成果が現れた。
友達がぶつかってきそうになった時、
無意識に体が滑るように動き、
衝突を避けることができた。
私自身もその変化に驚いた。
以前なら、ぶつかって転んでいたはずなのに。
体が、勝手に反応する。
まるで、別の私になったみたいだった。
旧来の学級秩序の中に、
私が新しい異物として存在するような、
微かな摩擦を感じる。
周囲との間に生じるギャップに、
少しだけ戸惑った。
教室のざわめき、
チョークの匂い、
全部が以前と同じなのに、
私だけが、どこか違う場所にいるような気がした。
そんな中で、みきちゃんと真人くんが、
私のクラスに転校してきた。
二人が隣の席になった時、
思わず声が出そうになった。
「みきちゃん! 真人くん!」
いつも三人で一緒に過ごすことで、
私から寂しさが消えた。
彼らは、私が以前の自分と
違うことを誰よりも理解してくれた。
休み時間には、訓練所の秘密の話を
小声で交わしたり、
他愛ないことで笑い合ったりした。
みきちゃんが、ふと私に尋ねた。
「いずみ、もう学校、怖くない?」
「うん。だって、ひとりじゃないもん」
私がそう言うと、二人は優しく笑ってくれた。
隼人お兄ちゃんから貰った
「四次元ポシェット」は、
私の学校生活で本当に役に立った。
もう、教科書を隠される心配はない。
必要なものが瞬時に取り出せる。
例えば、美術の時間に使う絵の具が
教室に忘れたことに気づいても、
すぐにポシェットから出せる。
それは、私と隼人お兄ちゃんの間接的な繋がり。
私が裏の世界の庇護下にあることを示唆していた。
このポシェットがある限り、
私は守られている。
そう思うと、心が落ち着いた。
放課後、三人で隼人お兄ちゃんの
バイク屋に顔を出した。
店内に漂うオイルの匂いと、
エンジンの音が、私には
もう違和感なく馴染んでいた。
隼人お兄ちゃんは、
以前とは見違えるほど明るくなった私を見て、
満足そうに頷いた。
彼の瞳に、微かな安堵が浮かんでいるように見えた。
私の日常に、笑顔が戻ってきた。
それは、隼人お兄ちゃんがくれた、
新しい世界だった。
いずみの日記:
学校が、もう怖くなかった。
だって、私、強くなったんだもん。
みきちゃんと真人くんも、
隣にいてくれる。
隼人お兄ちゃんが、
私を一人ぼっちにさせなかった。
本当にありがとう。
次回予告:
毎日が、こんなにキラキラしてるなんて。
隼人さん、ありがとう。
次回、第9話「笑顔のある日常の回復」。
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