第4話 神々の会議

「定刻となりました。会議を始めます。」


 ヴェルグレドを案内してくれたメイド服の女性がそう言う。

 今、ヴェルグレドが座っているのは庭園の中心に置かれた円卓。そして、円卓には六つの席があり、ヴェルグレド以外に五人の人物がそこに座っていた。


「御恐れながら、出席を。」


「シラー様。」


「はい。」


 金色の髪をもつ女性が答えた。高貴そうな人だ。


「アビス様。」


「………ぐぅ」


 寝てる。紫がかった黒髪の女性だ。毛先は蝋が溶けたかのようにぼんやりと消えかかっている。


「トールマーレア様。」


「はい。」


 穏やかそうな、亜麻色の髪をもつ女性だ。なんというか、包容力を感じる。


「ファレンシア様。」


「はい。」


 髪の色が左右で分かれている女性だ。目の色も違うからチグハグ感がすごい。


「オリーヴェ様。」


「……。」


 真っ白な女性、いや少女?がこくりと頷いた。ヴェルグレドには、その少女の周りに白い霧がかかっていているように見えた。


「代理出席、ヴェルグレド様。」


「……………? ああ、私か。」


 全員に見つめられて初めて自分が呼ばれていることに気づいた。ヴェルグレドは彼女らが一体誰なのかずっと考えていた。


「はい。」


 そうして、出席の確認が終わった。司会がメイド服の女性からシラーという女性に移された。

 金色の彼女がはっきりとした口調で話し始める。


「前回と引き続き、支配領域の確認から始める。現在の配分に異論があるものはいるか?」


「いいえ。」


 トールマーレアが首を振る。他の人も話し出す雰囲気はない。ヴェルグレドを除いて。


「すまない。全くもって何が起きているのかわからないのだが、まず、ここはどこだい? てっきり死後の世界とばかりに思っていたが。」


「……はぁ。」


 ファレンシアがため息をついた。


「やはり、この人間は代理として不適だ。なぜ奴はこのような選択をしたのか。」


 シラーが頷く。


「同意だ。だが、我々が感知することではない。貴様が人間を使ってちょっかいをかけているのは知っているがな。」


「貴様には関係のないことだ。」


 シラーとファレンシアが睨み合っている。

 ぱちん、という音が膠着状態を破った。見ると、寝ていたアビスという女性の鼻提灯が破裂した音だった。


「ん~、もう始まってたのぉ? 起こしてよ~。」


 伸びをしている。そして、唐突にヴェルグレドの方を見た。


「ちょうどいいや、“死”の権能、ちょうだい?」


 その濃紫の瞳に見つめられると、時間が止まったような感覚に陥る。いや、違う。これは、実際に止まっているのか。思考はできるのに体が動かない。


『解除』


 ファレンシアがそう言うとヴェルグレドの体が自由になった。


「ちぇっ」


 アビスが不貞腐れている。

 シラーが指摘する。


「支配領域に異論があるなら正式な手続きを踏め。」


「はいはい~、めんどくさいなぁ。いいですよーだ。」


 なんだかわからないが、助けられたみたいだ。一応、お礼を言っておくか。


「不要だ。」


 え、いやでも…、


「不要だ。」


 このファレンシアという人は心でも読めるのだろうか。

 何故かわからないが、ファレンシアに物凄い形相で睨まれている。怖い。


「では、次の議題へ移ろう。」


「あのー、その前に、一ついいですか?」


 亜麻色の髪をした、トールマーレアという女性が手を挙げる。


「なんだ?」


「オリーヴェちゃんの処罰に関することです。もうあれから千年近く経ってますし、もういいんじゃないかなってぇ。」


「被害者である貴様がそういうならそうだろう。ただ、これに関しては我が許すことができない。」


「えぇ~? なんでですか?」


「なぜなら、貴様が作ったとかいうあの山脈のせいで目障りな魔王への対処が遅れているからだ。」


「そんなにあの龍種が気になるならご自身で対処なさればいいじゃないですかぁ~。」


「っ…! そうしたいのも山々だがな、私が現界へ降りている間に権能を奪われたらどうするのだ。」


「そんなこと誰もしませんよ~。ねぇ?」


 トールマーレアがみんなを見回すも、誰も頷かない。


「……全くもって信用ならんな。」


 本当になんの話をしているんだろう。ヴェルグレドはメイド服の女性が出してくれた紅茶を飲みながら考える。今度は砂糖も一緒に出してくれたからおいしく飲めた。


「この話は終わりだ。オリーヴェ、貴様もこれでいいな?」


 真っ白な少女が頷いた。


「では改めて、次の議題だ。」


 その後も、会議は続いた。



 ヴェルグレドが暇すぎて寝こけていると、気づいたらその場は庭園じゃなくなっていた。

 いつもの荒れ地だ。体の輪郭は溶け、空には欠けた月が一つ。

 いつも通り、ヴェルグレドの目の前には一つの人影があった。黒く覆われていて、どんな姿をしているかは分からない。


 ヴェルグレドは、すっかり仲良くなった(と勝手に思っている)人影に話しかける。


「やぁやぁ、謎の会議に出席してきたよ! 暇だった。」


『……酷いこと、されなかった?』


「されてないとも! 紅茶も飲んだ。」


『怖く、なかった?』


「? いや別に。なぜだい?」


『………そう。よかった。』


 ヴェルグレドは、なんて言っているのかはいまだに聞き取れなかったが、口の形や身振り手振りでなんとなく言ってることは分かるようになっていた。


「いやー、しかし、あの紅茶は絶対安物だね。うん、絶対。」

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