第7話 死の杯
「利勇よ、この料理は何だ?」
「それは
「山羊だと? 臭みが全くないではないか」
「
「うむ、美味いぞ。
酒宴は
料理が進むと酒も進み、天寧はこれまでにないほどの赤ら顔になっている。
「うむ、いいぞいいぞ。おい
「では、こちらなどはいかがでしょう」
そして利勇が差し出した盆の上には、
「おぉ……」
太陽の光を受けて
「
「ふむ……」
天寧はその杯を受け取ると、それを利勇に向かって突き返した。
「お前が飲んでみよ、利勇」
心臓が
「いえ、これは私ごときが飲める酒ではございません。この国でこの極上の酒を飲むことが許される
「構わん、余が許す。利勇よ、この酒を半分まで飲んでみよ。そうすれば余も飲むことにしよう」
「ではせめて、器を改めさせてください。この器も陛下のためにご用意した極上の一品でございます。私ごときが口を付けて、
「ならん。今ここで、この杯でこの酒を飲め。飲まないのならば殺す」
何に気づかれ、何を勘づかれたのか利勇にはわからない。しかし人間を誰一人として信用しないこの
そして今、今日まで天寧の猜疑心の目を上手く
「どうした? 早く飲め! 飲まんかあああっ!」
天寧の
利勇は目を見開き、杯を手に取り口に付け、
顔を上気させて天寧が見つめる。利勇は杯を置いた。酒は半分まで減っている。
しかし利勇は顔色ひとつ変えずに口をぬぐう。天寧は目を丸くした。
「ほう、毒かと思ったが……」
「毒などと、とんでもございません。私如きの舌には勿体ないほどに美味でございます」
「余の勘違いであった。では素直に飲むとしよう、余の新時代を祝してな」
天寧は杯を傾け、残った酒を一息に飲み干した。杯を置くと、げっぷ混じりに言った。
「うむ、確かに美味であるな。利勇よ、褒めて遣わす」
「ありがたき幸せにございます」
「くくく、北や南の
「いえ、もう充分でございます」
「何?」
「一滴飲めば充分なのです、その酒を心身まで味わっていただくためには」
「何だと? 貴様、それはどういう……」
効果はすぐに現れた。
天寧の指が震え始め、杯が床に落ちて砕き割れる。
「かっ、ここっ、こっ……⁉」
天寧は玉座の上で、打ち上げられた魚のように激しく
「きっ、
ぶつかった勢いで、食卓の上に並べられた皿が派手な音を立てて次々と床に落ちる。踊り子たちが悲鳴を上げ、他の側近たちは
「お答えいたします」
すると利勇は、鼻からさっき飲んだはずの酒を吹き出した。利勇は飲んだふりをして、
「
「やっ、
王宮に天寧の怒号が響き渡った。
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