第15話「バンドやろうぜ!」
学園祭まで三週間。
教室では恒例の「出し物会議」が行われていた。
「以上。全会一致でわがC組の模擬店は『ねこみみメイド喫茶』に決まったけど……ほんとに大丈夫?」
担任のその問いかけに、ほとんどのクラスメイトがうなずく。
女子は「衣装可愛いしアリ」だし、男子は「見れるからアリ」だ。
理屈としては単純だが、マジで全会一致に近い。
「異議なし? いいね? 先生、ちゃんと一度は反対したからね?」
なにか予防線を張っている担任に向かって、生徒からは拍手が上がる。
あいかわらずこのクラスはみんなノリがいい。
そんな空気の中俺は、リュシアとティアナのメイド服……ちょっと見てみたいなとまぁ、そんなことを考えていた。
空想の翼を羽ばたかせ、心の中でだけニヤニヤしつつ、となりのリュシアの様子をうかがう。
彼女は、転校初日に俺があげたノートに、『ねこみみメイド喫茶』と、きれいな字でメモをとっていた。
周りには『メイド喫茶とは?』『なぜネコの耳を?』など、様々な疑問が書き込んである。
これは後で質問攻めにされそうだと思っていると、突然前の席のケンゴが、手を上げながら勢いよく立ち上がった。
「先生! おれ『対バントーナメント』にエントリーします!」
「あ、うん。じゃ、あとで職員室に申請書類取りに来てね」
「了解でいす! それじゃ、おれの準備はバンド練習ってことで!」
ちゃっかり自分だけ模擬店の準備から免除されようとしている。
「おい。めんどいからって逃げんなよ」
「いやいや、音楽だよ? 青春だよ? なんかこう、バンドってだけでテンション上がるっしょ?」
クラスメイトは「がんばれよー」だの「見に行くよ」だのと、ケンゴを応援している。
なんか文句言う雰囲気でもなくなった。
ため息をついた俺に、ケンゴがニヤリと笑って親指を立てた。
放課後。
ケンゴはいろんなところから借りたギターやベース、軽音部の倉庫から持ってきた古いアンプとキーボードを並べていた。
ここしか空いてなかったからというだけの理由で、練習用に借りた理科準備室。
ギャラリーは人体模型と、ホルマリン漬けのヒキガエルだ。
「なあ、ほんとに俺、これやるのか?」
俺は渡されたベースを前に、指の置き方もわからず、立ち尽くしていた。
「大丈夫大丈夫。ベースは“リズムに合わせるだけ”って誰かが言ってた」
「誰かって誰だよ」
「なんかミュージシャン的な人だよ」
「……お前ほんっと適当だよな」
「なんだよ、ほめても何も出ないぜ?」
「ほめてねぇよ」
いつものやりとりをしていると、理科準備室のドア勢いよく開く。
「ティアナもやる! バンドやる☆」
元気いっぱいに飛び込んできたのは、やはりティアナだった。
「情報早いな。でもこれ、高等部のイベントだぜ?」
「ティアナの担任ちょろいから“上級生との交流のためです”って言ったらオッケーだって☆」
言いながら、ティアナは準備室にずかずかと入り、キョロキョロと周りを見渡す。
俺の持ってるベース、ケンゴのギター、キーボードを順番に見て、最後に首をかしげた。
「ねぇねぇ、ドラムは? ティアナドラムたたきたい!」
「ドラムはさすがに借りてないなぁ」
「やだやだ! ドラムたたきたい-!」
「たたけんのか?」
「ガールズバンドのMVで見たよ! 簡単そうだったもん☆」
頭が痛い。
とりあえず、ケンゴのコネクションでドラムセットを借りる算段をして、返事待ちになった。
続いて、制服姿のリュシアもやや戸惑った表情で入ってくる。
「リュシアちゃんは、ボーカルね」
「え、ええと……はい。カラオケは楽しかったので」
「だーいじょうぶ大丈夫! カラオケのあれ、めっちゃ上手かったし!」
ケンゴがギターを手渡す。
「ギターも持って。やっぱバンドのボーカルって言えば、ギター持ってないとね」
「わ、わかりました。がんばります」
リュシアが、少し不安そうにギターを抱える。
確かに、赤いエレキギターを首から下げた姿はさまになっている。
ボーカルは、見た目も歌声も文句なし。
だけど、かわいいけどMVで見ただけのドラム、楽器はリコーダーしか演奏したことのないベース。
経験者はケンゴのみ。
正直、不安しかない構成だった。
それでも、四人そろうとなんとなく、バンドらしくなった気がした。
「とりあえず、簡単なコード練習から始めようか」
「……はい!」
「ユウリも、チューニングはしてあるから、適当にピッキングの練習でもしといて」
「ピッキングってなんだよ。あと適当にってのもなんだよ。お前マジで適当だな」
「ほめんなよ、何も出ないよ」
「ほめてねぇよ」
「ねぇねぇケンゴ、ドラムは?」
「はいはい、ティアナちゃん、もうちょっと待ってね。連絡ついたらユウリに運んでもらうから」
「俺かよ」
「おれはリュシアちゃんにギター教えるので忙しいの!」
その言葉はウソではない。
真剣にギターを練習するリュシアに、ケンゴはつきっきりで教えていた。
彼女のやる気に、俺も真面目にベースを練習しようという気持ちになる。
ティアナも、プラ性のスポイトで机をたたき、リズムよく練習を始めた。
バラバラの音が、少しずつ重なって“音楽”になってゆく。
――バンドって、思ってたより楽しいかも。
そんな思いが、胸の奥で少しわき上がった。
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