やっぱり普通じゃないと思うお兄ちゃん

【シヴァファミリー移住の謎】

年が明け、1月の半ばを過ぎた頃。

2人に新しい乗り物ヴァーハナが届けられた。



「はぁ……可愛すぎる……。」



眠る黒猫を微笑んで眺めるシルビア。

どうやらドゥンを失った寂しさは埋められたようだ。



「良かったな、代わりの猫が来て。」



「ふふ、クッションもお役御免ですね。」



「やだリリィさん。お役御免になんかしないわよ?あのクッション、抱き心地が良いんだもの。あ、ダン兄ちゃん、この子達クロヒョウの赤ちゃんだから。」



「は?クロヒョウ……?」



どう見ても黒猫じゃないか。

いや、良く見れば幼い体型をしている……。



「大丈夫なのか?クロヒョウも猛獣だろ?」



「大丈夫よ、小さくても神獣なんだから。」



「神獣……そうよ、神の使いだったわ!」



改めて気づいたリリィが歓喜の声を上げる。



「シルビアさん、触っても……?」



「ええ、たくさん触ってあげてね。」



後の性格に影響する為、愛情たっぷりに育てたいらしい。



「シルビア、そろそろ戻らないと。」



「あ、うん。リリィさん、何かあったら連絡してもらえる?」



「はい、お任せ下さい。」



快諾したリリィに礼を言い、2人は育成部へと戻って行った。

それからしばらくすると、慌ただしい足音が聞こえて来た。



「騒々しいな。何かあったのか?」



リビングから顔を出すと、シルビアを横抱きにした男が走って来た。



「貴様!シルビアをどうするつもりだ!」



見知らぬ男を警戒し、構えて行く手を阻む。

何事かとリリィも顔を出し、俺達の様子を見て「あ」と小さな声を上げた。



「おう、久しぶりだな。また腹がデカくなったんじゃねぇか?」



「あ、はい。来月には産まれて来ますからそれなりには。」



不審者と笑顔で話すリリィに唖然とした。



「っと、今はそれどころじゃねぇんだった!また後でな!」



そう言うと男は走って行った。

腕の中のシルビアは微笑んでいただけで……



「リリィ……?あいつを知ってるのか?」



「え?何言って……」



リリィの不思議そうな顔に戸惑っていると、また「あ」と声を上げた。



「ダン、シヴァ神様よ、さっきの人……。」



「はあ!?シヴァ神!?」



何でシヴァ神がここに?

それよりあの状況は……



「まさかメイクラブって事はないよな?」



「まさか。シヴァ神様はシャスタさんじゃないんだから、そんなの有り得ないでしょう?」



「だよな……。」



何を考えているんだと、2人で苦笑した。


ところがだ。


どういう訳かシヴァ神とパールヴァティーがこの屋敷に住む事になった。



「で?シルビア達はどこ行ったんだ?」



2人をソフィアに任せ、姿を見せないシルビア達。

その行方を尋ねると、ナンシーの実家に行ったと言う。



「ガネーシャ神との結婚を決めたから、その挨拶に行ったのよ。って、うわっ、何その格好!」



引っ越しが終わったらしいシヴァ神が姿を現したのだが、その格好ときたら……



「きゃーっ、真のお姿ですね!?その姿を見られるなんて……」



「っと、あまり興奮するな。」



失神しそうなリリィを支え、かぶりを振る。

こんなシヴァ神達と同じ屋根の下で暮らしたら、リリィの身体が持たないんじゃないだろうか。



「ちょっと!そんな格好で歩かないでよ!」



「うるせぇな。どんな格好しようが俺の勝手だろ?つーか、喧嘩売ってんのか?早速やんのかよ、兄妹喧嘩。」



「しないわよ!面倒だし!」



挑発するシヴァ神に舌を出し、言っても無駄だと判断したソフィアが無視を決め込む。


だが、周りを気にしないシヴァ神にイライラしていた。

シルビア達が帰宅した途端、そのイライラは爆発する。


注意するようシルビアに文句を言うソフィア。

注意したシルビアとシヴァ神が何故かバトルになり……



「!」



茫然としていた俺は、リリィの声にならない声で我に返った。



「リリィ!?」



途端に崩れ落ちるリリィ。

慌てて支えるが、既に失神していた。

腕10本のシヴァ神は、ある意味破壊的だった。



「悪い、リリィを部屋に──」



連れて行くと伝えようとしたが、みんなの意識はバトル中の2人にあった。

それならばと、伝えずに部屋へと戻り、リリィをベッドに寝かせた。



「あの格好で暮らされたら堪ったもんじゃないな……。」



後でシルビアに何とかしてもらおう。

ため息をつき、リリィの意識が戻るのを待った。



「ん……」



「気が付いたか?」



問いかけるも、きょとんとしている。

自分が失神した事に気づいていないらしい。

説明すると、シヴァ神の姿を思い出して興奮していた。



「興奮するなと言ってるだろう?臨月なんだから、もっと注意してくれないか?」



「ごめんなさい。気をつけます……。でも!」



あの姿を見たら興奮して当然だとリリィが訴える。

確かにそうだと、頷くしかなかった。


俺の心配をよそに、シヴァ神は来た時の姿で屋敷をうろついていた。



「よお、リリィはどうした?」



「失神したから部屋で休ませている。シヴァ神に会ったらまた興奮しかねないからな。」



「……俺のせいか。悪かったな。後で詫びするからよ。」



そう言って、苦笑しながらどこかへ行ってしまった。


それにしても、何でここで暮らすんだ?

しかも夫婦揃って移住して来た訳だろ?


化身を解かれたなら、もうシルビア達とは無関係のはず……。



「あっ、ちょうど良かった。ダン君、大広間ってどっちだったかな。」



「ガネーシャ神……?何でこんな所に……?」



ガネーシャ神が個人の部屋があるエリアをうろついていた。

客として来たならここに居るのはおかしいのだが……



「ちょっと迷っちゃってね。俺の部屋があっちだから、こっちの方だとは思うんだけど……」



「俺の部屋?」



「うん。ここで暮らす事になったんだ。上じゃ象頭になっちゃうから、ナンシーが……ね。」



頬を掻き、苦笑するガネーシャ神。



「ああ、なるほど、そういう事か。」



だからシヴァ神達もここで暮らすのか。


息子想いのシヴァ神にフッと笑い、ガネーシャ神を大広間に案内した。

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