第6話 海の怪談
「
「遠くにはいったらだめだぞー」
「はーい!」
父は漁師だったこともあり、私は昔から海が大好きだった。そんな父が久しぶりに帰ってきたことから、車で近くの海までやってきた。
私にとって久しぶりだった海はとても青くて広く、空まで広がっているように感じた。
その日は曇り空が広がっていた––––––。
8歳の私はドーナツのイラストが描かれた浮き輪を腰に回すと、海に足を踏み入れる。それは異常なほどに、冷たかった。
ぷかぷかと浮き輪に乗りながら海を漂っている。お父さんたちがいる沖からかなり離れていたのでそろそろ戻らないと怒られてしまうと思い、方向転換をすると、海の奥のほうにナニカ、人影が見えた。
私よりも海が深いところにいるのは多分、怒られるだけじゃ済まない。
「あのー!早く沖に戻ったほうがいいですよー!聞こえてますかー!?」
私は思いっきり声を張って人影に言うと、その人影は私の声が聞こえたのか、私の方に近づいてきた。
近づいてくるにつれて、その容姿が明らかになっていった。
その人は髪を長く伸ばした、"目の赤い"女の人だった。女は私の目の前までくると、どこか不気味な笑みを浮かべ、赤く細い目で見つめてくる。
「あの、大丈夫ですか、?いっしょに沖に戻りますか?」
その威圧に圧倒されて何故か言葉が行き詰まってしまう。
女はどこからか貝を取り出して、私に差し出す。よく見るとそれはアワビだった。
「あ、アワビ...?くれるの?」
女は目を細め、ゆっくりとうなづく。
私は訳がわからないまま、それを受け取ろうとすると、急に大きな波が私を襲う。
ぶくぶくぶく...
助けて!溺れちゃう!
声にしようとするが、口から空気が漏れ出るりだけで、どんどん身体中の酸素が枯渇していくだけだった。
意識が朦朧としていく中、ふと女の方を見ると、"それ"は大きな波の中、波が見えていないかのように少しも動かずに佇んでいた。
今思えば私が浮き輪でぷかぷかと浮いている中、女は他に足をついているかのように少しも動いていなかった。
その"異常さ"に気づいた時、私はとある怪談を思い出した。
『トモカヅキ』
トモカヅキは曇天の時に海に現れる妖怪で、人を暗い場所へと誘ったり、アワビを差し出したりする。この誘いに乗ってしまうと、命が奪われると言われている。
そうだ、あの女は人ではなく、"トモカヅキ"だったのだ。私は急いで手足を動かして女から逃げようとするが、手足が体から離れてしまったかのようにまったく動かなかった。
その時を待っていたかのようにトモカヅキは赤い目で私を見つめると、すごい勢いでこっちに向かってくる。
あ、もうダメだ。私死んじゃう。
そう思った瞬間、目の前が真っ暗になった。
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