君の遺した世界を呪う〜守護霊と化した君は怨念が強すぎる!〜

綴否-Tsuduri.ina-

第1話 ゆびきりげんまん

 いつもの場所、いつもの時間で君を待っている。

 どうせ今日も学校につけば、いわゆる"いじめっ子"と呼ばれる、他人を弄ぶことによって高校生活を謳歌している奴らから色々言われるんだ。


玲央奈れおな〜!!ごめん、待った?」

 でもそんな学校が苦ではないのは、君が私のそばにいてくれるから。

しのぶ、私も今きたとこ。いこっ」

「ちょ、待てって、!」

 後ろから慌てて走ってくる足音。それを聞いて今日がまた始まったなって思う。


 そう、残酷な一日が–––––。


ーーーーーーーーーーーーーー


「おっ、今日もカップルきたわ、"クリス・忍"君♡」

 教室のドアを開けた途端、場が静まり返り皆がこちらを向く。ただ一人、場の空気を一転させるように発言したのは彼女、冬木美沙ふゆきみさだ。


 美沙はこのクラスの中心的人物で、その周りにいわゆる一軍女子が群がっており、後ろには喧嘩に飢えている男子が溜まっているのだ。

 私は小さくなって美沙とすれ違おうとすると、肩が当たってしまい、美沙が床に尻餅をついてしまった。


「.,,は?マジさいってー。責任とってよ。医療費とクリーニング代。はやく」


 美沙は明らかに不機嫌な顔で手のひらを突き出してくる。


「そ、そんな強く当たってないし...」

「は!?今なんて言った!このやろ––」


 拳が突き上げられた瞬間、反射的に目を瞑った。もうだめだ、殴られてしまう...

 だけどなかなか頭の方に衝撃がこないので、片目をそっと開けてみると、衝撃的な光景が広がっていた。


 忍が美沙の腕を空中で掴んでいたのだ。


「なんだよハーフ男。彼女を守りたいってか?あ?」


 美沙は動かずに首だけ回して忍に言い放つ。

 空中で固定されたままの右手はぴたりと止まって動かない。


 だが私は見てしまった。美沙が開いた方の左手でポケットの中から何か取り出すのを–––。


「そんなのじゃない。僕は自分がしたいようにしているだけだ」


 忍がそう言った瞬間、美沙の左手–鋭い何か–が忍の腹に食い込んだ。

 それは他から見ると殴ったように見えるが、私の角度からでは完全に、"刺さった"ように見えた。


「ダメ!!!!!!」


 そういったのも束の間、忍の腹からは赤い液体が垂れてきた。


「ぐはっっ」

 忍が声を出すのと同時に口からも赤い液体が噴き出てきた。


 私はとっさに応急手当てとしてハンカチをシャツが赤くなったところに押さえる。

「忍!大丈夫だから!忍–––っ」


 次の瞬間、私の脇を後ろから誰かに掴まれ、腕が動かせなくなってしまった。

 驚いて首を回して後ろをみると、美沙について回っている一軍女子の1人、市原花代ちいはらはなよが脇を掴んでいた。

 170センチ以上ある花代にとって私とでは20センチ近く身長差があるので抑えるのは簡単だろう。


 激しく抵抗するが、なんの効果もなかった。


「ほら、みてみなよ。君のダーリンが死んじゃうよ?」


 花代の言葉に正面を向くと、忍の周りにはガタイのいい男子たちが集まり、忍を蹴っていた。


「だめ!!やめて!!!なんで忍にまでそんなことするの!?!?」


 泣きじゃくりながら叫ぶ。

 だがその声はどこにも届いていないようだった。


「ふふふ、かわいそーなんだけどw」


 その声の方向をみると、美沙がおもしろおかしそうに片手で動画を撮っていた。

 その左手には赤い液体が滴る、鋭いナイフが握られていた。


 その瞬間、頭の中で何かが切れた音がした。

 突然何の感情もなくなり、涙も出なくなった。


 そうだ、私は忍がいなきゃだめなんだ。忍がいない生活なんて、きっとなにも楽しくない。


『ずっと一緒にいようね!』

『もちろん!』

『ゆびきりげんまーん、嘘ついたら針千本のーます!ゆびきった!』


 そう約束した5歳の頃の思い出が蘇る。

 近くの公園の花畑でゆびきりげんまんしたよね。それからずっと一緒だった。朝も、昼も、夜も。この12年間ありがと。


「––––––な」

「––––おな」

「–––れおな...!」


 忍の枯れた声で一気に現実に引き戻される。

 忍の方を見ると、片腕を挙げていた。


「忍...」

 声にもならない思いが頬を伝う。

「玲央奈...」

 それでも忍は笑っているように見えた。

 いつも私に向けてくれている笑顔で。


「僕たち...ずっと一緒だよな......?」


 そういうと、忍が震えながら小指を立てる。

 まるで幼い子が友達と約束をするかのように。


 そのことに気づいた瞬間、私も涙でぐちゃぐちゃになった顔で無理して笑う。


「もちろんだよ、忍...これからもずっと一緒だよ」

 忍の小指と私の小指が結ばれる。


–ゆびきりげんまーん、嘘ついたら針千本のーます!ゆびきった!–


 次の瞬間、忍の腕がだらんと力を無くし、血の池に着水した。

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