第12話 冬馬の違和感
それから競技の練習や休憩の時、話しているうちに、俺は違和感を覚えていた。
今の夏希はどこか色っぽくて、俺が知っている夏希とは違っていた。
その違和感に俺は正直、戸惑っていた。
「ねえ、冬馬、どうしたの?ちょっと顔が曇ってるよ」
「なあ、夏希。夏希って、変わったよな」
「えっ?」
こんなことを本人に言うのはよくないと思いながらも、俺は聞きたかった。
今の夏希が何を考えているのか、知りたかったんだ。
「確かに私は高校に入って変わったと思ってるよ」
「でも、これも私なんだよね」
そう自信を持って言う夏希には、中学の頃の面影も感じられた。
(そうか、俺は過去の夏希を求めていたんだ)
「でも、、」
夏希は突然立ち上がり、耳元で囁いた。
「もし冬馬君が中学校の私の方がいいなら、、私はそれでもいいけど」
昔の口調に戻して言う夏希は、ニヤッと笑ってその場を去った。
しかし、背を向けたその顔は、どこか悲しく曇っていた。
体育祭の練習が終わり、学校から帰ろうとしたとき、陽菜が声をかけてきた。
「ねえ、冬馬。一緒に帰らない?」
「ああ、いいけど。珍しいな」
「うん、ちょっと君と話したくて」
どこか不安そうな目をしていた。
「ねえ、冬馬。こんなこと聞くのもアレだけど、答えたくなかったら無理に答えなくていいよ」
「なんだよ?」
「冬馬は夏希のこと、どう思ってるの?」
その質問に、俺の心は跳ねた。
「どうって、、」
「ごめん、この質問だけははぐらかさないでほしい」
そう真っ直ぐに見つめられ、俺は思わず本音が漏れた。
「夏希のことは確かに気になってる。あんなにアピールされたら、俺でも気づくよ」
「そうだよね」
「でも、なんか違う気がするんだ」
「違うって?」
「前の夏希は言葉がまっすぐ届く感じだけど、今の夏希は何か違うって言うか」
「何か違う、、か」
その言葉に、俺は陽菜と夏希を重ねてしまった。
(まさか、夏希も陽菜と同じように、、)
ただの推測だったが、その可能性が確信に近く思えた。
陽菜はしばらく黙り込んだ。
その沈黙の中に、何か深いものが隠れている気がした。
「冬馬、、僕も、夏希のこと、悔しいけどなんだか心配なんだ」
声は震えていた。
「心配?どういう意味?」
俺が尋ねると、彼女は小さく息を吐いた。
「夏希はクラスで見てた時はいつも明るくてかわいいけど、さっきの夏希みたいにたまに取り繕っ
てる気がする。僕みたいに、仮面を被ってるんじゃないかって」
陽菜の目が潤み、遠くを見つめる。
「無理してる、、のか」
その言葉が胸に刺さった。俺もずっと感じていた違和感が、確信に変わりそうだった。
「だから冬馬がそう思うのもわかる。私も、冬馬が言う前の夏希みたいに、自然体でいてほしいっ
て願ってる」
陽菜は少し笑った。
でも、その笑顔はどこか儚げだった。
「二人とも、自分の居場所を探してるんだな」
俺は小さく呟き、二人の間にある微妙な距離を感じた。
「夏希も陽菜も、どちらも大事なんだ。だから、どうすればいいのか、俺もわからなくなる」
胸の中は混乱と優しさが入り混じっていた。
陽菜はじっと俺を見つめ、言った。
「でも冬馬、自分の気持ちに嘘はつかないで。どんな答えでも、私は味方だよ」
その言葉に、少し救われた気がした。
そして、これからの自分と夏希、陽菜との関係をもっと真剣に考えなければと強く思った。
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