第4話 ゴミ拾いにも分析と改善を
時給、約69円。
このままでは、俺の輝かしい副業計画は、開始初日で頓挫してしまう。
俺は、先ほど換金したポーションの空き瓶をきっかけに、その場にしゃがみ込み、緊急の一人対策会議を始めた。
議題は『ゴミ拾い作業における収益性改善について』だ。
まず事実を整理しよう。
・ゴブリンの骨や布切れといった『自然由来のゴミ』は、1G〜3G程度の価値しかない。
・それに対し、『ポーションの空き瓶』は10Gだった。
この差は、一体何だ?
俺は、しがないサラリーマン生活で培った、ささやかな分析能力をフル回転させる。
仮説①:素材の違い説。
ガラス瓶は、骨や布よりは価値があるということだろうか。確かに、そうかもしれない。
仮説②:元々の価値説。
ポーションは、探索者がお金を出して買う『アイテム』だ。その名残が、価値としてゴミに残っているのではないか?自然に落ちている骨とは出自が違う。
次に謎の『“推しへの愛”ボーナス+1G』。
これは、完全に意味が分からない。
俺のスキル名に、そんな可愛らしい文言はなかったはずだ。
あの時、俺は何を考えていただろうか?
そうだ。「ああ、疲れたな……。早く帰って、奏ちゃんのライブDVDが見たいな……」と、推しのことを考えていた。
……まさか、な。
気のせいか、何かのバグだろう。
「……よし。考えていても仕方ない。検証あるのみだ」
俺は再び、ヘッドライトの明かりを頼りにダンジョンの清掃活動を再開した。
まずは仮説②の検証だ。
『元アイテムだったゴミは、換金額が高い説』。
そのためには、他の探索者が捨てたゴミを見つける必要がある。
俺は戦闘の跡地だけでなく、探索者たちが休憩を取りそうな少し開けた場所や壁際を重点的に探し始めた。
すると、狙いは当たり岩陰に誰かが捨てていったであろう、『少し欠けた砥石』を発見した。剣やナイフを研ぐための、これも立派なアイテムだったはずだ。
「【換金】!」
『欠けた砥石を換金しました。15Gを獲得しました』
「15円!やはり、当たりだ!」
自然由来のゴミとは明らかに換金額が違う。
俺の仮説は、どうやら正しかったようだ。
次に謎のボーナスの検証だ。
ちょうど、通路の隅に錆びついた矢尻が二つ落ちているのを見つけた。これで試してみよう。
まず一つ目。俺はあえて無心になる。
今日の夕飯のこと、明日の会議のこと……。そんな雑念に満ちた状態でスキルを発動。
「【換金】」
『錆びついた矢尻を換金しました。5Gを獲得しました』
ボーナスはつかない。なるほど。
では、二つ目だ。
俺は錆びついた矢尻を手に取ると、ゆっくりと目を閉じた。瞼の裏にステージの上でクールに歌い踊る、愛風 奏の神々しい姿を思い浮かべる。あの力強い眼差し、透き通るような歌声……!
「奏ちゃあああああん!この矢尻を!君のCD購入資金に変えるよおおお!」
心の中で、ありったけの愛を叫びながらスキルを発動した。
「喰らえ!俺の愛!【換金】ッ!」
『錆びついた矢尻を換金しました。5Gを獲得しました』
『――“推しへの愛”ボーナスが加算されました。+1G』
「つ、ついた!本当についたぞ!」
俺は思わず小声でガッツポーズをした。
どうやら、推しのことを強く想いながら換金すると1円だけボーナスがつくらしい。しょっぱい。あまりにもしょっぱい効果だが、それでもゼロがイチになるのだ。
これは、大きな発見である。
この二つの発見により、俺の『ゴミ拾い』は、新たな戦術フェーズへと移行した。
名付けて『ハイエナ式・推し愛ゴミ拾い術 Ver.2.0』だ。
①ひたすら探索者の後を追い、彼らが捨て置いた『元アイテムだったゴミ』を探す。
②発見したゴミは、必ず『奏ちゃんへの愛を心で叫びながら』換金する。
俺は早速、この新戦術を実践し始めた。
探索者が休憩したであろう跡地で使い捨ての『松明の燃えかす』を発見。
「奏ちゃん!君の輝きは、この松明の100万倍だよ!【換金】!」
松明8G+ボーナス1G = 9G。
岩の隙間に引っかかっていた、ボロボロの『皮袋の破片』を発見。
「奏ちゃん!いつか君にエルメスのバーキンをプレゼントするからな!【換金】!」
皮袋の破片12G + ボーナス1G = 13G。
傍から見れば、ゴミを拾っては時折、恍惚の表情を浮かべる、ただの不審なジャージおじさんだ。しかし俺自身は、偉大な発見に酔いしれていた。
数時間が経過し、さすがに疲労がピークに達した俺は初日の探索を終えることにした。
洞穴の外に出ると、空はすでにオレンジ色に染まり始めている。疲労困憊の体で近くの切り株に腰掛け、本日の収益を脳内で集計する。
その額、合計345G。
345円を時給換算すれば100円にも満たない。
あまりにも、ささやかな稼ぎだ。
だが、最初の1時間で稼いだ58円と比べれば、俺の工夫と改善で効率は確実に上がっている。
「これなら……続けられるかもしれない……!」
大金ではない。でも、自分の頭で考え、試行錯誤することで、ほんの少しだけ成果が上がった。その事実が、今の俺にとっては何よりの報酬だった。
「よし、明日も頑張るぞ!奏ちゃんのために!」
俺は345円という、あまりにも慎ましい稼ぎを握りしめ、確かな手応えと共に家路につくのだった。
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