現代霊能者はバズりたい

tanahiro2010@猫

第一章 - 配信開始

Prologue - 僕に名前は神城風磨

 この世界には、明示的に――つまり、「そうだ」と公式に定義されている存在がある。

 それが、『霊』という名の、死者の残響だ。


 たとえば、地縛霊。

 生前に深い未練や執着を残し、その場から離れることを許されず、時間すら忘れてその土地に縛りつけられた魂。

 やがて彼らは意識すら朧になり、周囲を通る人間を知らぬ間に蝕み、苦しめる“呪い”となってしまう。


 たとえば、迷い霊。

 地縛霊と似てはいるが、場所に縛られることなく彷徨う霊。

 死後もなお未練を抱え、ただ歩き続ける――それだけの存在。

 けれど、誰かの声に引かれ、想いに引かれ、ある日ふと災いをもたらすこともある。


 たとえば、執念霊。

 地縛霊や迷い霊が、怒りや妄執、憎しみや復讐心によって歪められ、攻撃性を持ったもの。

 彼らはもはや、ただの霊ではない。人を傷つけ、人を殺し、そしてなおもこの世に留まり続ける、“闇そのもの”だ。


 そう――この世界には、例を挙げればいくらでも出てくるほど、数多の『霊』が存在している。

 目に見える者も、見えない者も。声を出す者も、ただ沈黙を守る者も。

 それは誰かの隣に、今この瞬間も、静かに佇んでいるかもしれない。


 ……そして、そんな彼らを祓うのが、僕の仕事だ。


 名前は神城風磨。16歳、高校1年生。

 表向きはただの陰キャで、人付き合いも得意じゃない、冴えない学生。

 だが裏では――『世界最強の霊能者』と呼ばれている。


 これは、そんな僕が記録する、誰にも見せられない“配信日記”。

 除霊と戦いと、ちょっぴり...いや、結構バズりたい僕の、奇妙で不思議な物語である。



ーーーーーーーーーーーーー



「……今日もまた、依頼か」


 夜の十時。

 学校から帰って夕飯を済ませ、宿題も八割ほど片付けたタイミングで、机の上に置いていたスマホが震えた。

 ロック画面に表示されたのは、見慣れた文言――『除霊依頼』。


 きっとまた、政府の裏側に潜む秘密組織――“陰陽庁”からだ。

 スマホをスワイプして通知を開くと、やっぱりというか、予想通りというか。


「ふむふむ……ふん、なるほど……」


 独り言を漏らしながら、届いた依頼内容を確認する。


■ 除霊任務:概要

対象霊種:東京都郊外に出現する“迷い霊”

状態:目撃・被害報告の増加により、“執念霊”への変質が懸念される。人型。

報酬額:2,000,000ドル(USD)


 ……いつもながら、やけに簡素だ。

 もう少し危機感とか、切実さとか、依頼っぽさを演出できないのかと思う。たぶん庁内の誰かが、残業ついでにテンプレ文で送ったのだろう。

 まあ、僕以外に受けてくれる人間なんていないって、わかってるんだろうけど。


 とはいえ、僕の関心は別のところにある。


「……ほんと、毎回思うんだけど。なんで報酬がドルなの?ここ、日本だったよね?」


 この些細な“違和感”は、実のところ、僕にとってかなり深刻な問題だ。

 なぜならその報酬、僕の親が勝手に作って放置していたFX口座に振り込まれる仕様になっていて、日本円に換金するにはいろんな法律が絡んでくる――特に未成年の僕には手も足も出ないのだ。


 結果、僕のFX口座には約5億円相当のドル資産が眠り続けている。

 それだけの金があるのに、コンビニでゲームのプリペイドカードすら買えないというこの現実。

 目の前に金があっても使えないもどかしさは、なかなかのストレスだ。


「はぁ……。行くしかないか」


 重い腰を上げ、ベッド脇のクローゼットを開ける。

 中には、陰陽庁から支給され、それを無断で改造した装備――“札束みたいに分厚い封印符”と、“強化術式入りの退魔棒”が入っている。


 それらを手早く準備し、パーカーのフードを深く被った。


「ターゲットは“執念霊”の可能性か……いつもながら、面倒な奴ばっかり寄こしてくるよねぇ」


 玄関を出る頃には、夜風が肌を刺すように冷たくなっていた。

 僕は足音を殺し、静かに歩き出す。

 その行く先には、闇の中に蠢く“未練”と、“怨念”と、そしてまた――人には見えないものたちの世界が待っている。




ーーーーーーーーーーーーーーー



 その日、男はひとり、東京郊外の廃寺はいじ跡地に降り立っていた。

 男の名は――蘆屋あしや晴明せいめい

 道満なのか、晴明なのか。突っ込みどころ満載のこの名を掲げて、ネット上ではと称し、オカルト・心霊現象を独自に追求する動画配信者である。


「はいどうも! オカルトの真理に迫り、いつかは神すらも見出す――蘆屋あしや晴明せいめいでございます!」


 定番の挨拶を終えると、画面にはコメントが次々と流れ始めた。


:きたきたw

:またあのテンションかよw

:今回の心霊スポットはどこだ?

:神なんているはずないだろ、現実見ろっての

:はよ就職しろ


 半ば罵倒にも似たコメントの嵐。だが、それこそが彼の配信が支持されている証だった。


「えぇ? ですって? 何を言ってるんですか、かみはいますよ!」


 晴明はカメラにぐっと顔を寄せ、視聴者に語りかける。

 それは彼にとって“信仰”というより、に近い。


「皆さん、覚えてますよね? 以前の配信、 あそこで、が出てきたんですよ!」


:あれヤバかったよなww

:ただの紙屑かと思ったらマジで宝の山だった回

平安時代へいあんじだいの陰陽術の書物だっけ?

:↑まさかの専門家が『本物』認定してて草生えたやつね

陰陽師おんみょうじの末裔ってほんとだったんかい……


 そう、晴明は――かの有名な陰陽師おんみょうじ安倍晴明あべのせいめいの宿敵と称された蘆屋道満あしやどうまんの直系の子孫なのだ。

 彼の名は飾りではない。血は嘘をつかない。だからこそ、彼にはと信じている。


「しかも! あの書には、八百万やおよろずの神々をための術式まで、明確に記されていたんです!」


:でもそれって実証不可能だよな?

:人間に霊力れいりょくなんて備わってないだろ普通

陰陽気おんみょうきって何? 空気? 気圧?ww


「そう……そこが問題なんですよねぇ」


 彼は苦笑いを浮かべつつ、再び廃寺はいじ跡の周囲を映す。


「でもね、だからこそ僕はこうして動いているんです。証明するために。何より――


 その瞬間だった。


 カメラが、「ブツッ」と音を立て、画面に一瞬のノイズが走る。

 風もないのに、背後の朽ちた鳥居とりいがギィ……と軋んだ音を立てた。

 空気が、急に冷たく、重くなる。


:え、今なんか映った?

:背後、見ろ背後!

:音おかしくね?


「おや……?」


 晴明が振り返った、その瞬間だった。

 黒く、どろりとした“何か”が地を這い、彼の足元にまとわりついた。


「えっ……な、なんだこれ、ぬるぬる……? って、ちょ、動かない!?」


 笑いに変えようとしたその声は、すぐに悲鳴に変わる。

 足首に巻き付く。胸を締め付けるような圧力。

 カメラが大きく揺れ、彼の叫びがノイズまじりに漏れる。


「や……やばい、これ、マジのやつだ……! 誰か、誰かっ……!」


:え? 冗談? ガチ?

:カメラのノリじゃなくない?

:これ台本じゃないの?

:助けてやれよ誰か!


 視聴者がざわつき始めたその時――

 廃寺はいじの空気が


 そして画面は捉えるーー





 ーー夜の闇を切り裂くように現れた、黒衣の少年のを。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「えっ……なんでここに人がいるの??」


 に指定されたこの場所で、突然出くわしたのは、明らかに一般人と思しき男性。そしてそのすぐ目の前には、変異を終えた執念霊しゅうねんれい


 僕はその間に滑り込み、まず状況を整理する。


「え、民間人? それとも陰陽庁おんみょうちょうのスタッフ? ……これ、もう除霊していいやつ?」


 一応、除霊は可能な状態だ。

 対象の霊は、すでにしてしまっている。

 ただ、厄介なのは陰陽庁おんみょうちょうがたまにのために研究者を送り込んでくることだ。


 以前の依頼でも、誤って除霊してしまって研究者に怒鳴られた苦い記憶がある。

 ……あれは本当に最悪だった。


「ということで、ちょっと確認」


 僕は男性に向かって問いかける。


「すみません、念のため伺いますけど、だったりします?」


陰陽おんみょう……庁? い、いや、それよりも! 前の、前のアイツが……っ!」


 おそらく違うだろう。反応があまりにも素人すぎる。

 ならば――


「了解。じゃあ、やっちゃっていいね」


 僕はすっと息を吐き、を放つ。


 ーー《陰式 展延てんえん


 陰陽気おんみょうきから引き出したを解放し、対象の動きをさせる技だ。


 とはいえ、この術の効果は一瞬で、しかもしか生じない。

 でもそのがあれば、十分。


 僕は足元に陰気を滑らせ、霊のひざの動きをほんのわずかに止める。


「隙あり」


 そして、タイミングを合わせて回し蹴りを放つ。

 霊も避けようとするが、ほんの遅れが命取り。

 


 ……だが、それだけで執念霊しゅうねんれいが消えてくれるはずもなく。


「諞弱>諞弱>谿コ縺呻シ∵ュサ縺ュ?」


 言葉にならないを発しながら、霊はさらに強く僕に迫ってくる。

 異様に細く、鞭のようにしなる手足を振りかざして。


「ーー豁サ縺ュ繝?シ」


 その黒い腕が、地を裂くように襲いかかる。


「これで終わらせる」


 僕は身を捻りながら回避し、陽気ようきを胸元で素早く練る。


 ーー《陽式 一切合切爆天幟いっさいがっさいばくてんのぼり


 次の瞬間、僕の掌から迸る陽気ようきが、しきとして成り上がる。

 霊の本体へと命中したが、その場を灼くようにした。


 炎ではない。雷でもない。

 それは、


 を解体し、存在を光に還す。


「……よし、これで“お祓い”完了」


 煙が晴れると、霊の姿はすでになく。

 あの配信者らしき男は、ただ呆然と、僕を見つめていた。



あとがき————————


この投稿が上がっているということは、多分おそらく僕は一章を書き終えたのでしょう

なんか陰陽師系の小説書きたいなぁと思って書き始めたこれ

ぜひ評価お願いします


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ぜひよろしくお願いします

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