第5話

「そう言えばレティさん、元の世界では考えられない位に強くなれるってどれくらいのものなの?」

 皐月も格闘技をやっていた。

 俺と同じように強さに対して人一倍の興味を持っている。

 

「そうじゃのぅ、ワシが闘った中で一番強いやつは剣の一振で山をも切断出来るレベルじゃよ。」

「はっ?」

「流石にそいつは別格じゃが、その領域に至るヤツがいたのは紛れもない事実じゃ。」

「何それ、人間で括っていいのか? 人類卒業してるじゃんか。」

「まぁの。 ワシも似たようなもんじゃったがあやつにはボコられたもの。」

「まぢか、レティも……コイツやべぇ……」

「全盛期のワシ、世界で最強じゃと思っとったけど命からがら逃げ出したんじゃ。 ほれ、ヌシとの出会いがまさにそれじゃ。」

 驚愕の事実がしれっと並んでいく。

 

 レティとの出会いは俺が初めてリファインファンタジーにログインしたら何故か街中で死にかけていたレティを見かけたので初期配布されていた回復薬をかけてやったというものだった。


 プレイアブルになった瞬間血だらけのキャラクターが目の前に倒れていて焦ったのを良く覚えている。

  

「あの時は驚いたよ。 悪質ないたずらかと思った。」

「あやつ、まぢで強くてのぅ。 何度かやり合ったんじゃが最終的に歯がたたんくなって死の間際に転生の秘術を試したんじゃ。 ギリいけたんじゃがヌシがおらなんだらそのまま力尽きて転生先でおっちんどったところじゃ。」

「まぢかよ、神様の命の恩人とかレアすぎる。」

「良いことしたね、とうちゃん。」

「お、おぅ。」

 人助けならぬ神助けをしていたとは。

 人生色々あるもんだ。


「ゆうて1000年も前の話じゃからそいつももう死んどるじゃろうし、今の世界の最強がどんなヤツかわからん。 どのみち必要なんじゃからしっかり鍛えておく方が安全じゃろ。」

「そうだな……」

 頂点のレベルが想像出来ないレベルなのは驚いたが自分の伸び代がどこまであるのか楽しみになってきた令一だった。

 

 色々と話し込んでいる間に目的の冒険者ギルドにたどり着く。

 レンガ作りで大きさは学校の体育館程度でかなり大きい。

 両開きの鉄の扉は開け放たれていて中の喧騒が漏れだし威圧感のある建物の割りに雰囲気は明るい。

 

 扉をくぐるとそこには所狭しと多数の冒険者がいて活気に溢れていた。

 手前が酒場になっていて、カウンターや飲み食い出来る机などが設置されている。

 バーカウンターの右手には依頼が貼り付けられた大きな掲示板があり、いくつもの依頼と思われる紙が貼り付けられていた。

 その回りでは人集りが出来ていて、依頼をこなす為のパーティーメンバー募集や戦略戦術を語り合っていたり、噂話に華を咲かせたりしていた。


 少し話を聞いただけでも火トカゲの討伐に前衛職を探す声や、バストン共和国に不穏の動き有りだとか、帝国の神速と連邦の紫炎の華、どちらが強いだとか、その話題は様々だ。


 俺たちは酒場を抜けて奥へと進む。

 どういう原理かしらないがランプの様なものが光っていて建物の奥の方ではあるが十分な光量が保たれている。

 

 受付は4列あるのにも関わらず長蛇の列。

 その一列の最後尾に並ぶ。


 ここへ来た目的は当然冒険者ギルドへの登録もあるがギルドの教育機関、ミーレスのお世話になることにした。

 文無しの身で衣食住に加えて武器防具のレンタルまであるミーレスは新米の冒険者や、貴族や騎士階級の子弟までもがここに入る事が多い。


 冒険者を目指すものにはランクの低いうちに受けるであろう依頼の研修や実地を行う。

 実際の依頼を元に行うので報酬が発生しているが、そこは国が回収する。

 無料で教育が受けられる程甘くはない。

 しかし右も左も判らないようなルーキー達にチュートリアルがあるのと無いのでは冒険者としてのスタート位置は全く違うだろう。


 騎士を目指す者は冒険者志望とは異なり、本格的な学校の様なものに入り、そこで戦う術はもちろん、戦略戦術、学門も学ぶことになる。


 俺たちの様な有象無象がいきなり騎士を目指すような事は出来ないが、成績優秀者に限り騎士への門が開かれることもある。


 現在五つある騎士団の団長の一人の出自が農村の三男だと言うんだから中々夢がある話ではないだろうか。


 このような理由からこの国の冒険者志望のルーキー達はこのギルドの教育機関たるミーレスに殺到するのである。


 それがこの四つの長蛇の列という訳だ。

   

 そして俺たちの前に並んでいるのは皐月とそんなに背丈の変わらない男の子。

 年齢は13、14歳といったところか、若々しいというよりその顔には幼さを残している。

 令一が見ていた事に気付いた少年は気さくな笑顔を向けて話しかけてきた。


「君たちもギルドへの登録?」

「そだよ! 君も同じ?」

 少年から話しかけられた皐月が元気良く答える。

 

 少年は赤みがかった茶髪で良く日に焼けた肌で部活を頑張る中学生みたいなイメージだ。

 野球部出はなくサッカー部だな、顔もサッカーの顔してる、偏見だけど。

 うぇ~い系のサッカー部員に混じってる良い子側の子。

 どんだけ片寄った私見を持ってるんだよ、俺。

  

「へぇ、奇遇だね、僕もなんだ。 僕の名前はアクセル。」

「ウチはさつ、じゃなくてメイだよ! よろしくね!」

 本名じゃなくてキャラ名で名乗る皐月。

 

 そうか、ネットリテラシーだ。 いや、異世界リテラシーか。

 別に本名名乗っても良い気もするけどそこはそのロールプレイに乗っておこう。


「こっちがウチのとうちゃん。」

「ミルズだよ。」

 ナチュラルに他人に自分の親だと紹介する皐月。

 今や種族も違う自分達の事を全く考えていないのは我が娘らしい。

 

「ん? 君の種族はフェイリスでこの人はエルフィニアだよね? 歳も同じぐらいじゃない?」

「細かい事気にすんな! 男の子は大きくいけ!!」

 当然の指摘に皐月は否定することも怯むことなく勢いだけで誤魔化す。

  

「あ、ちょっとこの子、頭がアレな感じなのよ。 気にしないで。」

「都会には色々な人がいるんだな。」

 アクセル君はお上りさんらしくどことなく憧れに似た感情なのかわからないけれど瞳をキラキラさせながら俺たちを見ていた。

 俺たちも今日ここに来たから別に都会っ子ってわけでもないんだけど。

 この世界に比べたら都会に住んでいたとは思うけどさ。


俺たちの自己紹介が終わると待ってましたとばかりにさらに斜め上を行く頭のアレな子がずいっと前に出てくる。  

「ワシの名はレティシアじゃ。 久しぶりにこの世界へと帰ってきた。 出会えた事を光栄に思うが良い。」


 誰かこの子に礼儀を教えて上げてほしい。

 知性の上に礼節も欠けてしまっているなんて可哀想だろう?

 

「お伽噺の蒙昧の魔女と同じ名前 って君の親もなかなか攻めた名付けをしたんだね。」

 魔女だって。

 ぷぷ、神じゃないのか。

 魔女が昔のレティを指して言っているんだとしたらランクダウンも甚だしい。

 まぁ、起こした事柄は別として今のところ全てレティが話した事だからな。

 神なのか魔女なのか誰にも知ることは出来ないのだ。

 

「のぅのぅ、もうまいってなんじゃ?」

「バカでアホで道理がわからないって事だ。 その質問が昔の人の正しさを証明しているな。」

「誰がバカアホじゃ、ごるぁあ~」

 

 暴れだすレティに受付のお姉さんから速攻で叱りつけられる。

 ぐぬぬと怒り冷めやらぬ蒙昧のなんとかは地団駄を踏んでいる。

 知性と礼節に加えて理性すら持ち合わせていなかったのか……

 こいつが蒙昧の魔女に違いない。

 その名前に恥じない資質を感じるからな。


「君もギルドの教育機関、ミーレスってやつにはいるつもりなの?」

「はい、そうですね。 僕はカルネという小さな村の出身で家は農業をやっているんですが小さい畑にそんなに人手が要らなくて。 それで別の稼ぐ手段を考えてここに来ました!」

 若いのに偉いなぁ。

 自分がアクセル君の年の頃はそんなことは全く考えもしていなかった。

 

「そうなんだ、大変だけどお互い頑張ろう。」

「あなた方はどちらから?」

 俺達には答えにくい質問にちょっと言い淀む。

 するとレティが天井を指差す。


「ふっ、天からよ。 久しぶりに下界に降りてきてやったのじゃ、この世を統べるためにな、ククク。」

 まぁ、建物の中だから天を指差してるんじゃなくてアイツの頭の上のライトを指してるんだけどな。

 

「そうなんですね! 本当に蒙昧の魔女みたいです!」

 レティは得意気な顔をしている。

 

 しかしレティシアさんや、あなたは今、バカでアホっぽいから本物みたいって言われてるんよ?

 決して誉められてはいないんだ。

 蒙昧だからわからないかー。

 

 しっかしアクセル君も割りと良い性格してんな。

 お互いがニッコニコしててウケるんだけど。


それからアクセル君と俺たちは無事にギルドの登録を済ませる。

 今後は共に学ぶご学友だ。

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