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時が過ぎて、俺は高校3年生になった春を迎えた。父とは母は結婚した後、俺が小学6年生の時に離婚した。俺は父の家で引き取られ、母が出て行った。そして、母が再婚した。相手は父の運転手をしていた男だった。それ以降、一度も母に会っていない。しかし、俺は中学1年生から母の実家で祖父母と共に暮らすことになった。持病の喘息の治療のためだ。母は祖父母から勘当されており、家に寄りつかなかった。
黒崎家では長生きする者が少なく、長患いの者がいた。俺もその例になった。俺のことを心配した父が転地を勧めた。体と心を強くさせるためだ。陰鬱な雰囲気の家に居るよりも、海風の吹く土地に居る方が健康的になりそうだという理由もあった。
その土地へは月に2度、拓海兄さんが訪ねてきてくれた。そして、週1回は必ず電話で話した。離れている感覚が無いほどだった。来月は舞台を観に行こうと約束した次の日の夕方、祖父母の家に父から電話が掛かってきた。拓海兄さんの訃報だった。
テレビでは、首都高速道路で起きた玉突き事故のニュースが流れたところだった。その事故の犠牲になったと父が言った。
「お父さん。まだ分からないだろう。怪我人が運ばれたところだって言っているよ」
「拓海は亡くなった。明日、こっちに来なさい」
「はい。でも、拓海兄さんは無事だと思うけど……」
あの人が死ぬものか。当時の俺はそう考えた。ふんぞり返っていることだろうとも思った。少しぐらいは怪我をして、大人しくなれば良いとも思った。
そして、夜になり、そのニュースでの犠牲者の名前が報道された。黒崎拓海さん、33歳と出ていた。その時の俺は絶望感を感じて、水も喉を通らなかった。
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