剣聖おっさんのスペーススローライフ。前世は乱世だったので、のんびり暮らします。

カクヨムSF研@非公式

第一章 第二の人生は争い事なく

銀河歴1192年(1)

第1話 剣聖、SF世界に異世界転生する。


 ――――時は戦国乱世。



 

 戦乱の世を統一する一勢力があった。我島一族である。

 我島がしま直臣なおおみの亡き後、遺児である我島頼満よりみつは三歳であり、政権の維持は困難であった。


 そのため、後見人たる有力大名、逸見いつみ景義かげよし乙倉おとくら正親まさちか川鍋かわなべ刑部ぎょうぶ一新堂いっしんどう了海りょうかい円城えんじょう恒河ごうがの五人を五大老とし、政権を維持・運営してきた。

 

 特に一新堂了海はほかの四人の大老よりも官位が高く、ほかの四人は謂わば一新堂の牽制役として機能していた。


 一新堂了海に仕える武士団一千人。その筆頭武士、りょう辰威たついは剣聖と恐れられる武人であった。



 ――と伝わっているのは、いまはむかし。


 俺は一新堂さまの護衛中に背後から刺されて、死んだ。乱世の事情だ、相手は誰かと了海の顔を見て、言葉を失った。俺を刺したのは、了海の配下で、俺の家来の円藤だったのだ。

 俺は強大な人脈と武力故に、了海の信頼を損ねていたのだ。

 

 (まぁ、これも仕方ない。乱世だし。)



 俺は目を閉じ、死んだはずだった。目を開くと、ここは――?



 俺は気づけば平原のうえで寝転がっていた。

 起き上がると腹の傷もない。

 おかしい……。俺は訝しげに辺りを見回した。誰もおらず、殺気はなかった。


 さきほどいた、石畳――。

 武家屋敷の小路こみちですら、なかった。手元を無意識に探っている。腰に携帯した刀もない。

 立ち上がり、歩き出した。いったいここはどこなんだ?  

 平原のさきには林が見え、後ろを振り返るとかつて南蛮の船が運んできた絵にあるような木組みの家がちらほらある。

 ふと遠くを見渡すと、巨大な船と思しきものが空中を飛んでいた。唖然としていると、その船は空高く上っていき、光とともに消失した。


「な、な、な……」


 ――言葉にならない。手のひらを閉じたり開いたり。



 俺は異国に来たのか? 異国とはここまでの技術を有しているのか。かつて馬で駆けた日々を思う。南蛮は船の国だと思っていたがどうも違うらしい。

 くそっ……、俺は確かに死んだのだ。でもこうして生きている。これはもしや仏教徒の言う転生では? はたと気づいて俺は、またしても地面に寝転んだ。

 

 なんということだ……


 頭を抱えていると、南蛮人風の豊かな黒髪の女の子がやってきた。


「あなた、どこから来たの?」

「わからない。了海さまに裏切られて殺された――までは覚えている。教えてくれ、今はいつで、ここはどこなんだ?」

「ここは惑星クローディアの都市ミールストーム近くの村。今は銀河歴一一九二年の七月。これでいいかしら?」


 まるで理解できない。暦の感覚が違う。ましてや、日本という国ですらない。


「待ってくれ。俺は日本から来た。りょう辰威たついだ」

「何をしている人? もしかして、無職?」


 聞かれて言い淀んでしまう。確かに剣の職からは離れている。俺は剣聖――なんて言えるのか?

 ぐるぐると思考が混乱してくる。

 そうしていると、頭が破裂しそうになってまた倒れた――――



 あれ――――、

 ここは……



 

 目を開ければ、さきほどの女の子が俺の顔を覗き込んでいた。


「起きた。タツイ、あなたはきょうからここの離れに住みなさいね」

「え……、え……、武士は施しは受けない。それが誇りなんだ!」

「ぶし……? そんな誇りなんて捨ててしまいなさいよ」

「そんなことはできない、ええと……」

「エルカ。ラダトーム・エルカよ。よろしくね」

「よろしく……」


 俺はそう言ってぎこちなく微笑んだ。

 エルカはよく見ると白い肌の女の子で、瞳の色は霞んだ薄い鼠色、すらりとした手足は快活な性格を表しているように感じた。年は娘ほど離れているようだ。

 俺はエルカから温めた牛の乳(だと言われた)を渡されて飲んだ。

 口に広がる柔らかな心地と胸がほっとするこの感覚。いつ以来だろう?

 エルカははにかんで、部屋の説明を始めた。

 俺に与えられたのは質素だが、十分な広さをもった部屋で、畳ではない床の感触に少々目を丸くした。


 鏡を見れば、大柄な体格と乱世では黒髪だったが、灰色がかった茶色の髪になっていた。腹には刺し傷はなく、代わりに顎に傷跡があり、顔つきは前と変わらず頬骨の浮き出た彫りの深い顔つきだった。

 またしても腰にあった柄の感触と重みが思い出された。それも乱世の記憶とともに消えた。

 

 ――――さて、どうしようか。武士でも、土地の人間でもないこの俺に何ができるって言うんだ?


 そんな疑問はエルカの一言で消え去った。


 ――朝になったら、起きてちょうだい。羊の世話を頼むわ。




 朝日が昇り、光が降り注ぐ。

 窓辺に吊された幕布をはぎとると、朝日が部屋中に差し込んできた。まぶしさに目が眩むようだ。

 よくよく部屋を観察すると、床には色とりどりの糸で格子状に編まれた美しい敷布しきぬの、壁には民芸品風の壁掛けが掛かっていた。

 大きめの机には、淹れたてのお茶と、温められた卵と南蛮風のパンが置かれていた。かつて食べたカステラよりも素朴な味わいで、ぽそぽそとした食感が面白い。

 塩気のある薄膜状の乳白色のものが上に乗せてあって、口に含むと伸びるようなふしぎな食べ物だった。まろやかな味わい。これは癖になる。


 朝食にいちいち驚いていても仕方がない。着ていた服を着替えて、表に出た。

 平原いっぱいに光が降り注いでいる。




 ――――時は銀河歴一一九二年。 


 そこに戦国乱世の男の姿はなかった。(つづく)


 


 


 

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