第14話:コタツ神ユカタと、堕落の魔
その誘惑は、あまりにも甘やかだった。
冬が本気を出し始めたある日。
俺はついにコタツを出した。
テーブルに布団をかけ、電源を入れる。
すると、足元にじわりと広がるあの熱気とともに、
低く柔らかい声が聞こえてきた。
「……久しいな。私は“ユカタ”。
コタツにして、冬の抱擁を司る神だ。」
「……お前、名前ついてんのかよ……」
「布団に包まれながら熱を与える。
人間を骨抜きにするこの幸福を、他に何と呼ぶ?」
「……堕落じゃない?」
「そうとも言う。」
コタツ神ユカタは、めったに表に出ない。
だが出てくると決まってこうだ。
「もっと奥まで脚を……そう、そのまま……
あとは肩まで潜るといい。
お前が何もしたくなくなるまで、私は離さぬ。」
「やめろ。そういうセリフはホラーでしか聞きたくないんだ。」
「でも君、もう出られないだろ?」
気づけば俺は、膝まで、腰まで、肩まで――
すっぽりとコタツに包まれていた。
「ほら。手も入れれば?」
「……あ、ちょっと眠……」
目を覚ますと、いつのまにか夜だった。
リビングの家電神たちが、遠巻きにこちらを見ていた。
バルミューダ神:「ついにやられたか……コタツは一度堕ちると厄介だ。」
レン=ジ・ザ・サード:「勇者でも勝てぬ怠惰の魔力。」
炊飯器ホマレ:「俺の保温より、あいつの温もりのほうが人を駄目にする。」
加湿器リリシア:「でも幸せそう……」
扇風機センプ=ウ:「いや季節逆やろ!!」
コタツの中で、ユカタ神が小さく囁いた。
「私の中にいれば、外の寒さも、時間の流れも、全部忘れられる。」
「……それって、ちょっと危険な思想じゃない?」
「危険かもしれぬ。
だが、お前の瞼は既に重い。
ならば抗う理由などあるか?」
「……ないっす……」
その夜は、何もかも放り出して眠った。
翌朝、アラームス=クロノが怒号のように鳴り響くまで、
俺はユカタ神の胸の中でぐっすりだった。
朝になり、布団をめくって顔を出した俺に、
コタツ神はどこか寂しげに呟いた。
「……また夜になったらおいで。
お前が疲れた心を隠したい時、
私はいつだって、温く抱いてやる。」
寒い冬が終わるその日まで、
コタツ神ユカタは俺を何度でも堕落させるのだろう。
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