第10話:保温神ホマレと、冷ごはん派の叛逆
戦いの火種は、ほんのり温かかった。
朝、炊飯器のふたを開けたときだった。
昨日の残りご飯をそのまま保温していたら、中からもう一つの声が聞こえた。
「俺の名は“ホマレ”。
炊きたての誇りを守り抜く、保温の神だ」
「え、ツヤヒメじゃないの? 炊飯器にもう一柱いたの?」
「あれは“炊き神”だ。俺は“守り神”だ。
この釜の中で、飯の命を延命する者。
冷や飯など、冒涜だ。」
「いや、別に冷や飯でもうまいだろ……」
「その言葉、もう一度言ってみろ?」
「……すみません」
ホマレは、ツヤヒメと同じ炊飯器に宿っている、保温特化型の神だった。
性格は熱血系、そしてやたらプライドが高い。
「ごはんは、炊きたてが最強。それは揺るがぬ真理。
保温とは、その真理を可能な限り維持する戦いだ!」
「水分の蒸散と、米の劣化。
俺は日々、そのギリギリの戦場で踏ん張ってる!!」
「うん、でも正直ちょっと……臭い出てきてない?」
「それが戦いの勲章だ!!」
しかし、ここで事態は思わぬ方向に。
「……冷やご飯、うまいよ」
そう、台所の隅から小声が響いた。
声の主は――冷蔵庫の奥にいた、冷や飯派の亡霊たちだった。
「冷たい飯は、かきこめる」
「噛むほどに甘味が出る」
「むしろ、電子レンジの温めで蘇る真理こそ……」
「保温なんて、ただの延命装置じゃないか」
「米に、休ませるという選択肢を!!」
「めんどくせぇ文化戦争始まったな!?」
ツヤヒメ女神も沈黙を破る。
「ホマレ、あなたの努力は認める。でも、保温に18時間も耐えさせるのは酷……」
「黙れ、ツヤヒメ。貴様が炊き、俺が守る。
そう決めたじゃないか。あの頃、俺たちは――」
「なんだ過去にあったの!?」
電子レンジの勇者が割って入る。
「冷ごはん派、保温派……どちらも一理ある。
だが、俺の“再加熱”がなければ話にならん。
すべての飯は、俺に依存している!!」
「どんだけカオスなんだこの三角関係」
その夜、俺はホマレと向き合った。
「なあ……保温って、ほんとはつらいだろ?」
「……たしかに、24時間超えると、さすがにきつい。
米が“もういいです……”って顔してくるんだ」
「だから、潔く冷蔵庫に引き渡してさ。必要になったらレンジで呼び戻そうぜ」
「それは……それはもう、“俺がいなくてもいい”ってことか?」
「違う。お前が守ったから、冷ごはんがうまいんだよ。
だからこそ、次に活きる」
ホマレはしばらく沈黙した後、小さく言った。
「……一度、釜から出る勇気がほしかったのかもな」
「明日から……12時間で切ることにする。潔くな」
それ以来、我が家の保温モードはちょっと短くなった。
でも、ちょっとだけ優しい風味が増した気がする。
こうして、冷ごはん派の叛逆は終息した。
戦いの跡は、今もほんのり温かい。
それは、ホマレという神が、飯を最後まで守り抜こうとした“執念”の温度なのかもしれない。
【あとがき】
今回は、保温機能に宿る神・ホマレをお届けしました。
やたら熱血で、自分の役割に強い誇りを持つタイプです。
冷ごはんって、意外と好きな人も多いんですよね。
でも、それって“ちゃんと炊いて、ちゃんと保温されたあと”の姿だったりします。
だからホマレの存在、ちょっと報われてほしいなって思ったわけです。
さて次回は、待望の“浴室家電”領域へ進出!
風呂神カラリ様と、カビとの終わらぬ戦いです!
【応援のお願い】
くだらな神シリーズも、いよいよ二桁突入です!
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