第12話 届かないメールと、親友の尊さ

 夏休み明けから始まった『噂』は、半月経った今も続いている。

 十月に行われる球技大会の出場種目を決めるために、LHRで話し合いが行われているが、どこからともなく漏れ聞こえて来るのは、私と速水くんの話題ばかりで。

『二人でペア競技に出ればいいじゃん』などと、勝手に話が進みそうになっていて、さすがにだんまりを通すのもどうかと思い、言い返そうとすると。


「他人のことをどうこう言う前に、自分たちの名前を黒板に書けや!」


 突然声を荒げた新は、物凄い形相で噂好きのグループの子たちを一喝した。



 始業式のあの日、速水くんから謝罪のメールが来た。

 メル友であっても、悩みや愚痴を零すような仲ではないため、あまりあれこれと聞くのも気が引けて。

 クラスの子たちに正直に話したら解決しそうなものだけれど、あれだけ言いたい放題言っている子たちが、『悪かった』と認めるとは思えない。

 むしろ、今まで隠して来たことを根掘り葉掘り聞いて、新たな噂の種にしそうな気がする。

 人の噂も七十五日と言うし、そのうち気にならなくなるかな? と思ったり。


 朱里は毎日のように速水くんにメールを送っているが、始業式の日のメール以来、一通も返信がないだけでなく、視線すら合わそうとしない。


 揉め事に巻き込まないようにしてくれているのか。

 しつこいメールに返信するのも嫌になったのか。

 クラスメイトに『違う!』と否定しなかった私に幻滅したのか。

 無いとは思うけれど、私の知らないところで、新が『朱里と関わらないでくれ』と頼んだのかもしれないと思ってしまう自分がいる。


 結局、新と萌花は私の言葉を信じてくれたが、全てに納得したわけじゃない。

 今も一方的に言われ続けている噂に対して、速水くんが対処しない態度に憤怒している。

 みんなの目があるから、学校じゃなくてもいい。

 どこか静かなところで、彼と話ができるといいのだけれど。


***


 それから数日が経ったある日。

 萌花とお昼休みに自動販売機にジュースを買いに行った帰りに、他のクラスの男子に絡まれた。


「経験値積みたいなら、相手するけど~?」

「バイトしてないから、俺いつでも空いてるよ~」


 名も知らない男子二人組。

 萌花は私の手をキュッと掴んで、『行こ!』と顔を背けた。

 相手にしなければいい。

 こんなことキリがないし、くだらなすぎるから。

 だけど、毎日毎日言われ放題で、さすがの私だって鬱憤が溜まってるんだから!


「悪いけど、好みじゃないの! 萌花、行こっ」


 萌花の手を握り返して、教室へと早歩きする。

 背後で何やらブツブツ言い返しているみたいだけど、気にしない!

 気にしてたら、こっちのがメンタルやられちゃうんだから!


「朱里、凄いねっ」

「そう?」

「新みたいだった」

「何それ」

「……フフッ」

「してやったりだよね~」

「だねぇ」


 萌花と顔を見合わせてクスクスっと笑う。

 きっと、萌花や新がいなかったら、心が折れて学校に来れなくなっていたと思うから。


「萌花、ありがとね」

「ん?」

「味方でいてくれて」


 噂の標的になって、改めて『親友』の大切さを知った。

 いつも隣りにいてくれて、他愛ない会話をすることができて、同じ目線で過ごせる日常がどれほど尊いか。

 当たり前のように過ごしていた日々は、本当は恵まれすぎているのだと知ることができたから。

 こんな風に噂の標的になるのも、悪くないと思える。


***


 十一月に入っても未だにちらほらと噂が耳に入るけれど、前ほど気にならなくなっている。

 慣れて来たというのもあるが、心が成長したのか。

 噂をしている子たちが可哀そうに思えるのだ。

 他に楽しいことがないのだろうか?

 人を嘲笑うことしか楽しめないのか。

 もしかしたら、速水くんもこんな気持ちになってるんじゃないかと思えて。


 達観? なのかな。

 大事な脳みそを使うのに値しないと考えれるようになったというか。

 新なんて『進化してんじゃん』と馬鹿にするけど、本当にどうでもいいと思えるようになって来ている。

 ただ一つを除いては。


「また見てる~」

「だって……」

「彼なりに気を遣ってくれているんだと思って、忘れなよ」

「そんなこと出来るわけないじゃん。クラスメイトだよ? 毎日見てるのに、何で話すのもダメなの?」

「……彼が嫌がってるなら仕方ないよ」

「……」


 お昼休みにスマホを開いて受信ボックスをチェックしても、0件のまま。

 あれから一度も速水くんから連絡が来ていない。


 お昼休みもいつも教室から出ていってしまうし、休み時間や移動教室の時に声を掛けようとすると、スッといつもどこかへ行ってしまうのだ。

 一体どこでお昼ご飯を食べているのか。

 今日こそは! と思って後をつけようとしたけれど、案の定撒かれてしまった。

 足が長いと階段の上り下りもスピードが違うんだもん。


 完全にストーカーみたいに思われているかもしれない。

 新からも、『しつこい』と注意されている。

 こんなにも誰かのことをずっと考えたことのない朱里にとって、彼の存在は、学校に来るための意義みたいな位置づけになっているのだ。


 冬将軍到来とばかりに、冷たい北風が肌を刺すそんな日の放課後。

 萌花と新がバイトのため、学校の正門前で別れた朱里は、久しぶりに本屋さんに寄ってから帰ろうと駅方面へと向かった。

 すると、駅前のソフトクリーム屋さんから出て来た速水くんを発見!

 思わず、彼の元へと猛ダッシュしていた。


「速水くんっ!!」

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