薬屋の聖女と屋根裏の守護騎士の調薬採取記~聖女様がつくるお薬はどんな病にも問題にも効果アリ?!

のりのりの

序章――出会い

0-1.うわぁ! 薬草がいっぱい!

 ここは……どこだろう?


 美しい泉が湧く薬草の群生地。

 高貴な光に満ちた花畑。

 泉の側には輝く大樹が立ち、風に葉が揺れるたび、光の粒子が舞う。


 ああ……夢だ。


「キレイな木……」


 幼いワタシは、柔らかな風を肌に感じながら大樹を見上げていた。


 これは小さかった頃の忘れてしまった出来事。最近、この夢を見る頻度が増えている。


 甘い香りを含んだ風が舞い、光の粒がふわふわと漂う。


 父様から「ナナはまだ小さいから、あの鳥のような形をした岩から先へ行ってはいけないよ」と言われていた。


 けれど探している薬草が見つからず、「もう少しだけ」と自分に言い訳しながら、約束を破って奥へ進んだ。


 薬草は見つからなかったが、代わりにモリイチゴを発見。

 甘くて果汁が多いモリイチゴは、オトウトの大好きな食べ物だ。ワタシも父様も大好きだ。

 食が細いオトウトも、これだけは喜んで食べる。だが数年に一度、春の終わり頃にしか実らない貴重な実で、森の鳥や動物も狙っている。なかなか見つからず、お腹いっぱい食べられることはほとんどない。


 季節外れの実を夢中で頬張りながら、熱で苦しむオトウトのお見舞いにと摘み、カゴに入れる。


 香りに誘われさらに奥へ進むと、景色がぐにゃりと歪んだ。


 違和感と気持ち悪さを覚えた次の瞬間、ワタシは光あふれる場所――美しい泉が湧く、豊かな群生地――に立っていた。


 あまりの眩しさに目を細め、足元を見ると、光る花々の間に薬草が群れていた。

 よく見かけるものから、貴重種まで……。

 その数と種類の多さに、しばらく立ち尽くす。

 この光り輝く大地は、癒しの力に満ちた聖域だ。


「うわぁ! 薬草がいっぱい!」


 そう。

 ここは精霊に祝福された場所――光に満ちた薬草の群生地だ。


 父様は眠る前によく物語を聞かせてくれた。その中には薬草が豊かに生える特別な場所の話もあった。


 たぶん、ここは……父様が教えてくれた群生地のひとつだろう。どの場所かはわからないが、こうした地は世界のあちこちにあると父様は言っていた。もしかしたら、父様もまだ知らない場所かもしれない。


「やった――!」


 嬉しくなって、カゴを持ったまま大きく万歳をする。


 オトウトの病を治す薬草があるなら、ここがどこだって構わない。


 薬草や花を踏まぬよう注意しながら、ぽっかりと広がる光の空間へ駆け出した。


 花畑の中心、光る大樹のそばまで来ると、カゴを地面に置き、摘みたてのモリイチゴを両手いっぱいにすくい上げて天に掲げる。


 いくつかの実がこぼれ落ちたが、気にしていられない。


 ワタシはこの地を護る精霊に向かって声を張る。


「精霊様! お願いです! オトウトが病気なのです。とても苦しそうなのです。薬草を探して持ち帰ることをお許しください!」


 父様に教わったやり方とは少し違うけれど、精霊様のお膝元で薬草を採るときの挨拶をする。

 こういうのは言葉より気持ちだ、と父様は言っていた。


 ワタシの声を合図に、大樹がざわざわと揺れ、美しい光の粒が虹色に輝きながら空中を舞い始める。

 風が吹き、光る花びらが天へ舞い上がった。両手のモリイチゴに小さな光が群がり、次々と消えていく。姿はよく見えなかったが、楽しげな声が聞こえた。精霊の祝福だ。澄んだ空間がさらに透明さを増していく。


 やがて光はモリイチゴを食べ尽くし、今度はバスケットの中へ潜り込み、森で摘んだ恵みを食べ始めた。

 まずい、このままでは全部食べられてしまう! 精霊たちは食いしん坊だ。


「お、おねがいです! オトウトのお土産は残してください!」


 願いが届いたのか、光はふわふわと瞬きながらバスケットから離れていく。


 精霊様へのご挨拶を終え、薬草探しをはじめる。


「これは……お腹が痛いとき。これは……お腹がシクシクするとき。これは……頭がズキズキするとき。これは……喉が痛いとき。これは……喉がイガイガするとき」


 薬草はたくさんあっても、オトウトを治す薬草は見つからない。


 ここには必ずあるはずだ。オトウトの病は絶対に治る――そう思い、目を皿のようにして探し回る。

 父様が喜びそうな貴重な薬草もあったが、精霊様のお膝元で欲張ると本当に欲しい薬草が枯れてしまうと父様は言っていた。だから我慢する。


 ワタシが欲しいのは、オトウトを治す薬草だ。


「誰だ! 誰かそこにいるのか?」

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