[未決定]魔刻のアリディア〜魔法と刻印が織りなす世界の命運〜
ルーン
第1話 不思議な夢ってこと。
………………………俺は今夢を、見ている。
――あぁ、ひどい頭痛がする。
明晰夢…か、これは?…見るのは初めてだな。
明晰夢が見えているが、特に感情の昂りや、この瞬間を目に刻みたいとかは、特に思わない。
不思議な感覚がする、空を飛んでいるような、風に吹かれているような、なんとも言えない気持ち悪い感覚だ。
ただ朧げだが、見える。3人が机を囲んで、温かな団欒を楽しんでいるのが。これは家族なのか?、それともただの朋友なのか?
理由は分からないのに、どこか懐かしいような親近感がある。
それと同時に心の一部が欠けてしまったような、言いようのない喪失感に包まれる。
痛ぇ、…また頭痛が。
滝のように流れ込んでくる感情の奔流に、思わず吐き気を覚える。
そんな吐き気を紛らわすために、別のことに意識を向ける。
「ここはどこだ?」
当然だが、誰も答えてくれない。
場所が分からずとも、絶対に言い切れることがある、ここは何かがおかしい。
視界は白んでいて、輪郭はすべて曖昧だ。かろうじて、なんなのかは判断できるが、変な感覚だ。
空も地面も、境目が分からない。
足元は確かに硬いのに、そこに立っている実感すら薄い。
それに、途轍もなく寒い。
この寒さはもはや痛みだった、刺すのではない。
裂くような冷気。夢の中で寒さを感じるなんて、道理が通らない。
けれど、俺は今、この凍える現実の中にいる。
いや――これは寒いのではない。俺が、“寒さそのもの”の中にいるのだ。
動かない。声も出ない。
まるで自分が、氷の中に封じ込められているような……
――コンッ
微かな衝撃が、意識の底を揺らした。
パリ……パリパリ……
氷が、割れていく音がする。俺の周囲で、世界が、軋み始める。
閉ざされていた何かが、今――開かれようとしている。
自分の見ていた光景が、崩れ去っていく――。
それと同時に、身体の奥で張り詰めていた何かが、ぷつりと音を立てて切れた。
長い間、冷たい氷に囚われていた肉体は、もはや限界だった。
急激な温度差に、血がまともに巡らない。筋肉はこわばり、神経は痛む。
そして何より、精神はとうに擦り減っていた。
意識を失う寸前、かろうじて見えたのは――一つの人影だった。
男か女か、そんなことさえもう分からない。
ただ、視界が揺れ、膝が崩れ――
次の瞬間、俺はその人影の腕の中へと倒れ込んでいった。
「あ」
そんな、声と共に俺の意識が――
遠ざかる世界と、顔に感じるマシュマロかのような柔らかい感覚に包まれながら、ゆっくりと途切れていった。
――その夜、俺は思い出した。
昼か夜か、あるいは朝か。それすら曖昧な記憶だったが、きっと夜だったはずだ。意識が途切れる直前に見た景色は、漆黒に包まれていたから。
俺は――異世界に転生した。
名前は、瀬戸祐希。17歳、高校2年生。将来のことなんて、まだ何も決まってない。
身長は…たぶん172cmくらい。低いとか言われたくない。これでも一応、気にしてる。趣味は卓球だったけど、中学のときの試合で負けてからは、ラケットにも触れてない。心のどこかで、もう諦めたんだと思う。
……って、話が逸れたな。
確か、俺たち3人は――学校帰りの、いつもの道を歩いていたはずだ。
突然、空気が歪んで、目の前に光の柱と、禍々しい模様が浮かび上がった。魔法陣?そんなの、ゲームの中しか見たことない。でも、逃げる間もなく、それは俺たちを飲み込んだ。
二人はどうなった――って……思い出せない。
名前も、顔も、何もかもが霞がかったみたいに、ぼんやりしてる。
おかしい。学校のことも、授業の内容も、部活の話もちゃんと覚えてる。
家族のことだって、クラスの連中の顔だって、はっきり浮かぶ。
なのに、そのふたりの名前だけが、顔だけが、どうしても思い出せないんだ。
今どうしてるんだ。
そもそも、ここに来たのは俺だけなのか? それとも――
……いや、考えても答えなんて出ない。ただ、胸の奥がざわつく。
何か、大事なものを置き忘れてきたような、そんな感じだ。
ただ一つ確かなのは、戻る術も、立ち止まる時間も、もうないってことだ。
かくして俺は、異世界転生した。
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