僕達はもしかしたら前世空を飛んでいたかもしれない。

とらすき

第1話



「あれってなあに?」 




 幼稚園年少の頃だった。

 遠足で公園に着いた時に近くに止まっているスズメを指さして俺は言った。



「あのどうぶつさんはね、鳥さんって言ってね、 体に生えてる羽で自由に空を飛べるんだよ?」


 まだ犬のことをわんわんと呼んでいた俺に、

幼稚園のお姉さんは答えてくれた。


 俺は上を見上げた。

 そこに広がっていたのは雲一つない青空だった。


 その時……

 

 産まれて初めて…… 俺は空を綺麗だと思った。



「こんな大きくてきれーなおそらを好きなようにに飛べるの? カッコいい! 僕もあんな鳥さんみたいになれるかなあ?」


 

 もし仮に、その時に先生がパイロットとか宇宙飛行士といった職業を俺に教えていたら俺はその夢を追い続けたことだろう。

 

 だが……


「大丈夫。 ライトくんもいつかきっと鳥さんになって空を飛ぶことができるようになるよ。」


 先生は子供の夢を壊さない優しい人だった。


「僕はいつか鳥さんになって空を飛ぶ!」




 その時、俺の将来が決まった。

 



「さぁライトくん。 みんなと遊んでおいで!」


 そう言った先生の声にガン無視を決め込みスズメに視線を送り続ける……


 雀は俺の視線に気づいたようで飛んでいった。



 みんなが砂浜や遊具で遊んでいる中……

 俺は次々と木々に飛び移っていくスズメを目で追い続けていた。



 遠足が終わり、送迎バスで家の近くのバス停まで着いた。

 自分のことを待っていた両親に、鳥になりたい旨を伝えると。

 


「そうか! ライトが、決めたならお父さん達は応援するぞ! 頑張れ!」


「そのためにはお勉強も頑張らないとダメよ?」


 父と母は親バカだった。

(母はさりげなく勉強するように誘導してた。)



 そこからの俺はがむしゃらに鳥になるために勉強を始めた。


 小学校を卒業した時には高1の生物基礎を履修し終わっていた。

 海外の論文を読むため英検も準1級まで取得し、漢検も2級までは取得した。


 中学を卒業する時までは肉体に機械を組み込むことで空を飛ぶことができるようになるのではないかとロボット工学を勉強していたが、どうしても見た目がメカメカしくなってしまい機械で鳥になることは断念した。

 

 俺は鳥のような翼で空を飛びたいのだ。機械の翼で飛ぶなら飛行機などで事足りるし肌で風を感じながら空を飛べなければ意味がない。

 

 高校入学時には遺伝子組み換えの論文を書き終え博士号を取得していた。

 

 勿論、遺伝子を組み換えることによって生物学的に鳥になるためである。

 

 研究チームも発足した。

 みんな年上の大人ばかりだったが、探究心の前では年齢も経験も関係ないと言ってくれた。 良い仲間たちだった。


 あっという間に1年が過ぎ……


 自身の身体に鳥の遺伝子を移植する準備がようやくできた。


 高2の時に仲間達と一緒に移植実験を始めようと思って準備していたら、実験室に警察が入ってきて実験道具を取り上げられた上、人道に反する行為をしたとかいう意味の分からない理由で要注意人物として監視されるようになってしまった。


 研究チームの誰かから情報が漏れたらしい。


 親友になった光秀とは今も連絡が続いているが、他のメンバーは連絡も寄越さなくなった。彼らには感謝しているし、研究も驚くほど進んだので犯人探しなどは特にしなかった。


 

 

 それからは研究は一人で静かに進めた。

 情報も漏れることはないし、常に監視の目があるわけでも無かったので理論上はほとんど完成していたので後は実際に実験するだけだった。

 


 1年後、ある国からコンタクトがあった。

 なんと同行者がいないことを条件に専用の最新設備の実験室で実験をさせてくれるらしい。

 俺は疑ったが、光秀からは絶好のチャンスだと推されたので俺は行ってみることにした。


 そして今、俺はその国へ向かうプライベートジェットに乗っている。

 


 両親とはしばらく会えないだろう。俺がこんな夢を追い続けることが出来たのはあの2人が支えてくれたおかげなので心から感謝している。


 取り敢えず初めてする実験は羽根のもとになる骨と羽毛を生やすだけのつもりだが、俺が鳥になって帰ってきた時にも元気でいて欲しい。

 

 まぁ、去年も3人目の弟が出来たばかりだし元気だとは思うが。

 

 



 ふと思った。

 


 もしかしたら俺は前世、空を飛んでいたのかもしれない。 鳥だったのかもしれない。

 


 それだけ俺は鳥になり広大な青い空を自分の身一つで飛び回ることに憧れている。




 遂に、皆が荒唐無稽だと言うような夢に手が届く所まで俺は来たんだ。

 



もしも…………


 …………



 現地に着くまでは後6時間はかかるらしいし少し寝て待つとしよう。




↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔↔

 





「んっ……」



 何やら息が苦しい……


 それに…… 寒い……


「寒い?」


 俺は倒してあった椅子を戻し、飛び起きた。

 周りを見渡す……

 コックピットの方から

 大きな風切り音がする。

 ゴォォォオオオオン!!

 飛行機が大きく揺れた。


 窓の方に目を向けると戦闘機が目に入る


「戦闘機…… ?」


 ゴォォォオオオオン!!

 また飛行機が揺れる。


ライトは揺れに耐えられず床に倒れた。


「日本軍かっ!?」


 俺は警察が実験室に入り込んできた時のことを思い出した。


「今回もあの時もっ秘密裏に進めていたハズっ! 誰から情報が漏れた?」




 一人しか思いつかなかった。




「光秀が裏切ったのか……」



 壁にもたれながら何とか歩いてコックピットに着いた。


 操縦士がいない……………

 

 燃料も底を尽きかけている。

 どうやら途中で尽きるような量しか元々入れていなかったようだ。




「そうか…… 俺は嵌められたのか。」



 念の為と両親が持たせてくれていた衛星電話をかける。勿論相手は両親だ。

 

 プルルルルルル〜


 ガチャッ

「もしもし? 母さん? ああ…父さんもいる?」

 

飛行機の高度がどんどん下がってきた。


「何でかけてきたのかって? ……それよりも、弟達は無事?」

 

 恐らく尾翼に火が点いたのだろう。

 機内の気温が上がり汗が噴き出てきた。


「それは良かった…… ゲホゲホッ!」


 煙が操縦室にも入ってきた。

 強くむせる。


 手汗で受話器が滑って地面に落ちる。

 力なくしゃがみ込んで受話器を拾う。


「体調は大丈夫かって? 少し風邪気味でね、むせただけだよ。 まあしばらく会えなくなるからね。これだけは言っておくよ。 今まで俺のバカみたいな夢を応援してくれて本当にありがとうございました。」


 両親が何か言っていた。 

 でも、俺はすぐに電話を切った。

 

 「……………………。」


 もう火もかなり回ってきた。

 早く非常口から飛び降りなければ……

 

 いや、駄目だ…… この高さでは水面もコンクリよりも硬くなるだろう。


 足が…… 動かない……。


「ここまでか……。」


コックピットの椅子にもたれかかるようにして座り込む。

 コックピットから前の景色を見る。

 


 俺の眼には青空と青い海そして……


 


 渡り鳥が映り込んでいた……


 

「あぁ…… ハクチョウの群れか……。」



 V字隊列を組んで目の前を飛んでいる。

 それは俺の目には、天から神の使いの迎えが来たように映った。



「美しい……。」



 死ぬ前にこの広大な海の中で大きな群れを作る渡り鳥を見ることが出来た奇跡に感謝しながら最後の力を振り絞り、操縦桿を下に下げる。


 バードストライクを避けるためだ。

 

 上をハクチョウの群れが通っていく。


 これで、この鳥たちは無事に日本で越冬が出来るはずだ……

 



「少し寝よう…………。」


 

 もし…… 来世があるとするなら…

 

 どうか神様。


 「鳥に…… なりたい…。」


 


 そう言って…俺の意識は途切れた。









↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻↻



 


「カァ〜〜 カァ〜〜」


 カラスの鳴き声がする……


 おかしい…… 何でカラスの鳴き声が聞こえるんだ?


 カラスの声は渡り鳥じゃないからあんな場所いるわけないし聞こえてこないハズ…………


 もしかして転生か?俺はついに鳥に生まれ変わったのか?




「オギャアアアア!!!」 

 (よっしゃああ!!!)

 

 



 ………… え?


 



 どうやら俺は赤子に生まれ変わったようだ。




「オギャアアアアアア!!!!!!!」

(なんで鳥じゃねえんだよっ?!!!)


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