第二章:夏 凍れる命

——夏目夏樹の診療記録より


患者:冬野冬美(27歳、女性)

診断:重度低体温症、原因不明の薬物反応


救急搬送時、体温は28度まで低下。意識レベル重篤。

胃洗浄により未知の化合物を検出。成分分析を依頼中。


私は彼女の主治医として治療にあたることになった。

——正直に言えば、それは偶然ではない。


冬美とは高校時代から知っている。登山部で一緒だった。

彼女が春原と婚約したと聞いた時、複雑な気持ちだった。


救急からの問い合わせを聞いてこの病院に搬送してもらった。

医師として、一人の人間として、彼女を救いたい。

それが今の私の全てだ。


体温管理、薬剤投与、モニタリング。

治療は困難を極めた。彼女の身体はまるで本当に冬眠に入ろうとしているかのように、すべての機能が著しく低下していた。


春原の研究していた冬眠薬"トミスリン"——それが原因だとすれば、どう対処すればいいのか。

文献を調べても前例がないが、似たような症状で搬送されてきた患者を治療した経験があるからおおよその治療方針はすぐに定まった。


「先生、面会の方が」


看護師に呼ばれ、待合室に向かう。

春原が疲れ切った顔で座っていた。


「夏目……冬美の状態は?」


「安定はしている。ただし、まだ予断を許さない」


彼の顔に安堵の色が浮かぶ。


「頼む。彼女を救ってくれ。俺には……俺にはもう何もできない」


春原の手が震えているのに気づく。

彼もまた、あの雪山の記憶に囚われているのだろう。


「必ず救う」


私はそう約束した。医師として、そして——彼女を愛する一人の人間として。


——

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